第13話  竜神と人の狭間



 地上に戻った瞬間、

冷たい夜風が

龍斗の頬を打った。


 ダンジョン出口の

結界灯が、

赤から

緑へと変わる。


「……生還、

確認」


 管制の声が

震えていた。


 探索者たちは、

誰も

歓声を上げない。


 ただ、

龍斗を見る。


     ◆


 その静寂を

破ったのは、

爆音だった。


 ギルド支部の

正面通り。


 アスファルトが

めくれ上がり、

黒い影が

噴き出す。


「地上湧出だ!」


 警報。


 だが、

規模が違う。


 裂け目から

這い出したのは、

複数の

大型魔物。


 装甲獣。

刃肢虫。

混成群。


「……冗談だろ」


     ◆


 一般人が

逃げ惑う。


 探索者が

前に出るが、

数が

足りない。


「荒神、

動けるか!」


 Aランク探索者の

叫び。


 龍斗は、

宝槍を

握り締めた。


 胸の奥で、

二つの鼓動が

重なる。


「……行く」


     ◆


 一体目が

突進。


 コンクリートを

踏み砕き、

牙を

剥く。


 龍斗は、

正面から

迎えた。


 槍を

横に振る。


 蒼光が

夜を

切り裂く。


 魔物の頭部が

ずれ、

遅れて

崩れ落ちた。


 血と

魔力が

飛び散る。


     ◆


 二体目。

側面から。


 刃肢が

唸りを上げる。


 龍斗は

身を低くし、

滑り込む。


 柄で

関節を

叩き、

そのまま

突き上げる。


 腹部を

貫通。


 魔物が

痙攣し、

沈黙。


     ◆


「速すぎる……」


 探索者の

呟き。


 だが、

敵は

止まらない。


 空中。


 翼を持つ

魔獣が

舞い上がる。


 上空から

魔弾。


 龍斗は、

宝槍を

地に突き、

踏ん張った。


 穂先が

共鳴。


 薄い

光膜が

展開。


 魔弾が

弾かれる。


     ◆


 反撃。


 龍斗は、

地を蹴り、

跳躍。


 信じられない

高度。


 空中で

体を

ひねり、

突き。


 翼の付け根。


 骨ごと

貫く。


 魔獣が

墜落。


 路面を

砕いて

動かなくなった。


     ◆


 だが――

終わらない。


 裂け目が

さらに

広がる。


 重い圧。


 最後に

姿を現したのは、

異形の

騎士。


 人型。

全身鎧。

背に

黒翼。


 剣が、

地面を

擦る。


「……地上に

来る格じゃ

ない」


     ◆


 騎士が

踏み込む。


 一瞬。


 距離が

消える。


 龍斗は

咄嗟に

槍で

受けた。


 衝撃。


 腕が

痺れる。


 アスファルトが

放射状に

割れる。


「……重い」


     ◆


 剣撃。


 連続。


 龍斗は

後退しながら

捌く。


 火花。


 音。


 圧。


 人の

戦いではない。


 だが、

龍斗の

目は

冴えていた。


     ◆


「……ここだ」


 剣が

振り抜かれた

一瞬。


 龍斗は

踏み込む。


 柄で

剣を

弾き、

体当たり。


 距離が

詰まる。


 騎士の

胸当てに

穂先を

押し当てる。


     ◆


 だが、

止めない。


 胸の奥が

燃える。


 竜の

衝動。


 理性が

抑え込む。


「……俺は、

人だ」


 叫びと

共に、

突き。


     ◆


 鎧が

砕ける。


 中から

黒い核。


 騎士が

咆哮。


 剣を

振り下ろす。


 龍斗は

構わず

前進。


 核を

貫いた。


     ◆


 爆光。


 騎士は

崩れ、

黒煙となって

消えた。


 裂け目が

閉じる。


 夜が

戻る。


     ◆


 龍斗は、

宝槍を

下ろした。


 肩で

息をする。


 胸の奥で、

竜の鼓動が

静まっていく。


「……まだ、

完全に

なりきれない」


 それで

いい。


     ◆


 探索者たちが

近づく。


 恐怖と

敬意が

入り混じった

視線。


 Aランク探索者が

言った。


「荒神。

お前は――」


「俺は、

探索者だ」


 龍斗は

静かに

答えた。


 竜神である前に、

人であると

決めた。


 だが――

戦いは

避けられない。


 宝槍が、

微かに

鳴動する。


 次なる

戦場が、

確実に

近づいていた。

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