第12話 竜神の名



 ダンジョンの出口は、

崩落しかけていた。


 天井から

砂埃が落ち、

警告音が

低く鳴る。


「撤退だ!」


 ギルド管理官の

通信が響く。


 だが、

龍斗の足は

止まった。


 背後――

空間が

歪んでいる。


     ◆


 黒い裂け目が

再び開く。


 先ほどまでとは

違う。


 圧が、

重い。


 裂け目から

姿を現したのは、

人型の影だった。


 だが、

背中には

歪な翼。


 顔は仮面のように

平坦で、

中央に

赤い縦線。


「……最終守護者?」


 探索者が

息を呑む。


 影が、

一歩踏み出す。


 床が

沈んだ。


     ◆


「全員、

距離を取れ!」


 Aランク探索者が

叫ぶ。


 だが、

影は

瞬間的に

消えた。


 次の瞬間。


 前衛が

吹き飛ぶ。


 壁に

叩きつけられ、

動かない。


「……速すぎる!」


 龍斗は、

宝槍を

握り直した。


 胸の奥が、

低く

唸る。


     ◆


 影が、

龍斗を見る。


 視線を

感じた瞬間、

頭の奥が

焼ける。


 ――名を

呼ばれている。


「来る!」


 直感。


 龍斗は

後方へ

跳ぶ。


 その場所を、

影の刃が

薙いだ。


 空気が

裂ける音。


 遅れて、

床が

真っ二つに

割れた。


     ◆


 反撃。


 龍斗は、

踏み込み、

突き。


 蒼光が

走る。


 だが――

影は

受け止めた。


 片手で。


「……止めた?」


 信じられない。


 影の腕が、

きしむ。


 だが、

折れない。


 逆に、

強く

弾き返される。


 龍斗は

宙を舞い、

着地と同時に

膝をついた。


     ◆


「荒神!」


 声が

遠い。


 影が、

ゆっくりと

歩み寄る。


 翼が

広がり、

影が

空間を

覆う。


 殺意。


 純粋な、

排除の意志。


     ◆


 龍斗は、

立ち上がった。


 足が

震える。


 だが、

心は

不思議と

静かだった。


「……思い出せ」


 自分に

言い聞かせる。


 宝槍が、

応えるように

震える。


 穂先から

蒼と紅が

絡み合う。


     ◆


 影が

跳躍。


 一瞬で

距離が

詰まる。


 龍斗は、

正面から

迎えた。


 槍と刃が

激突。


 火花。


 衝撃。


 腕が

痺れる。


 だが、

退かない。


 柄で

弾き、

体を

捻り、

突き上げる。


 影の胸部に

裂け目。


 だが、

浅い。


     ◆


 反撃。


 影の翼が

叩きつけられる。


 龍斗は

吹き飛び、

壁に

激突。


 視界が

揺れる。


 血の味。


「……まだだ」


 その瞬間、

頭の奥で

何かが

弾けた。


     ◆


 ――名。


 長い時を

越えて、

封じられていた

真名。


 炎。

空。

雷。


 世界を

睥睨する

存在。


 龍斗の口が、

自然に

動いた。


「……我が名は」


     ◆


 影が、

動きを

止める。


 宝槍が

咆哮した。


 蒼光が

爆発的に

広がる。


 龍斗の背後に、

巨大な

竜の影。


 探索者たちが

息を呑む。


     ◆


「――

アウルグラディア」


 名を

告げた瞬間、

空間が

震えた。


 影が、

後ずさる。


 恐怖。


 明確な

感情。


 龍斗は、

踏み込んだ。


 今度は、

迷いはない。


     ◆


 突き。


 ただの

一撃。


 だが、

空気ごと

貫く。


 影の胸部が

砕け、

核が

露出。


 影が

叫ぶ。


 音にならない

悲鳴。


 龍斗は、

最後まで

突き抜いた。


     ◆


 爆光。


 影は

完全に

消滅した。


 ダンジョン全体が

静まり、

警告音が

止む。


 崩落が

収まり、

出口が

安定した。


     ◆


 龍斗は、

宝槍を

地に突き、

肩で

息をした。


 背後の

竜の影は、

ゆっくりと

消える。


 だが、

完全ではない。


 まだ、

一部。


 それでも――

名は、

取り戻した。


     ◆


「……今のは」


 Aランク探索者が

震える声で

言う。


「竜……?」


 龍斗は、

答えなかった。


 ただ、

胸に手を当てる。


 鼓動は、

確かに

自分のもの。


 だが、

同時に

古き存在の

ものでもあった。


 荒神龍斗。


 そして――

竜神

アウルグラディア。


 二つの存在が、

今、

同じ身体に

在った。


 物語は、

新たな章へ

踏み出す。

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