第6話 監視指定



 ダンジョン出口の

自動隔壁が閉じると同時に、

外の光が差し込んだ。


 荒神龍斗は、

眩しさに目を細め、

大きく息を吐く。


 血の匂いが、

まだ鼻の奥に残っていた。


「……生きて、

戻った」


 その言葉が、

現実味を持つまで、

数秒かかった。


 探索者三人組は、

無言のまま

彼を見ている。


 視線の中身は、

疑念。

驚愕。

そして――警戒。


「ギルドに、

報告が必要だな」


 先頭の男が、

低く言った。


「さっきの戦闘、

全部、

記録カメラに残ってる」


 龍斗は、

初めて

胸がざわつくのを

感じた。


     ◆


 ギルド第三支部。

地下解析室。


 無機質な部屋に、

映像が映し出される。


 そこに映るのは、

ダンジョン内部で

戦う少年。


 荒神龍斗。


 無駄のない動き。

致命点を

正確に突く刃。


 そして――

常識外れの

踏み込み。


「……あり得ない」


 モニター前で、

スーツ姿の男が

呟いた。


「Fランク、

無スキル判定。

それが、この動き?」


 隣の女性が、

データを操作する。


「筋力値、

反応速度、

すべて

基準値以下です」


「なのに、

戦闘結果は

S相当……」


 室内に、

重い沈黙が落ちた。


「監視指定だ」


 男が、

即断する。


「この少年は、

放置できない」


     ◆


 一方その頃。


 龍斗は、

ギルドの簡易医療室で、

腕の手当を受けていた。


 消毒液が、

しみる。


「っ……」


「我慢して。

浅いけど、

数が多いわ」


 医療スタッフの声は、

優しかった。


 だが、

龍斗の意識は、

別の場所にあった。


 ダンジョン奥で感じた、

あの鼓動。


 低く、

重く、

確かな存在感。


 ――呼ばれている。


 そんな気がしてならない。


「荒神くん」


 声をかけられ、

顔を上げる。


 そこに立っていたのは、

ギルド職員二人。


 どちらも、

戦闘職ではない。


 だが、

空気が違う。


「少し、

お話があります」


     ◆


 応接室。


 ガラス越しに、

街が見える。


「単刀直入に聞きます」


 職員の男が、

切り出した。


「今日のダンジョン、

どうやって

生き延びましたか」


「……戦いました」


 龍斗は、

正直に答える。


「それだけ?」


「それだけです」


 嘘ではない。


 自分でも、

理由がわからない。


「スキルは?」


「ありません」


「隠していませんか」


「……いいえ」


 男は、

しばらく

龍斗を見つめ、

小さく息を吐いた。


「荒神くん。

君は今日から、

特別監視対象になります」


「……監視?」


「危険だから、

という意味ではない」


 女職員が、

言葉を継ぐ。


「未確認要素が

多すぎるの」


 龍斗は、

黙って

頷いた。


     ◆


 その夜。


 龍斗は、

自室のベッドで

目を閉じていた。


 だが、

眠れない。


 瞼の裏に、

あの戦闘が

何度も蘇る。


 血の感触。

刃の重み。

魔物の咆哮。


 そして――

胸を満たす

奇妙な高揚。


「……怖いな」


 自分が、

戦いを

嫌っていないことが。


 その時。


 部屋の空気が、

微かに

震えた。


 ――ドクン。


 心臓とは

別の場所で、

鼓動が鳴る。


 龍斗は、

息を止めた。


 耳鳴りの向こうで、

低い声が

聞こえた気がした。


 言葉ではない。

意味だけが、

流れ込む。


 ――まだだ。


 ――思い出すな。


「……誰だ」


 返事はない。


 だが、

確信だけが残った。


 ダンジョンの奥には、

まだ

戦いがある。


 そして、

自分は――

そこへ行かなければ

ならない。


 荒神龍斗は、

ゆっくりと

拳を握った。


 竜神の力は、

まだ封じられている。


 だが、

監視という名の

鎖が、

今、

静かに

巻き付いた。

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