第4話 評価不能の少年
通路の奥から、
足音が聞こえた。
複数。
人のものだ。
荒神龍斗は、
短剣を下げたまま、
壁際に身を寄せる。
魔物の血が、
まだ床に温かく残っている。
この状況を
どう説明すればいい。
考えるより先に、
声が飛んだ。
「おい!
そこの君、
大丈夫か!」
現れたのは、
三人組の探索者だった。
全員が成人。
装備も、
初心者用より一段上。
先頭の男が、
周囲を見回し、
目を見開く。
「……これは」
床に転がる
三体の死骸。
上位個体を含む
グロウルラットの群れ。
「君が、
一人でやったのか?」
龍斗は、
一瞬だけ
迷い、
小さく頷いた。
「……はい」
沈黙。
男たちは、
顔を見合わせた。
「冗談だろ。
この区画は
俺たちでも
警戒してたんだぞ」
女探索者が、
信じられないという
表情で言う。
「あなた、
ランクは?」
「……Fです」
その言葉で、
空気が凍った。
「F……?」
「無スキルってこと?」
視線が、
突き刺さる。
龍斗は、
俯いた。
「自分でも、
よくわかりません」
正直な答えだった。
◆
その時だった。
ダンジョンの奥から、
重い振動が伝わってくる。
ドン。
ドン。
床が、
僅かに揺れる。
「……来るぞ」
先頭の男が、
剣を抜いた。
「大型だ。
隊形を組む!」
通路の影から、
姿を現したのは――
異形だった。
四足。
だが、
胴体は異様に長い。
頭部には、
二本の角。
口からは
白い息が漏れている。
――ストーンハウンド。
岩の皮膚を持つ
中型魔物。
初心者区画には
本来出現しない。
「まずいな……」
探索者の一人が、
唾を飲む。
「君は下がれ!」
男が叫ぶ。
だが、
龍斗の足は
動かなかった。
胸の奥が、
ざわつく。
逃げるな。
立て。
そんな衝動。
ストーンハウンドが、
吼えた。
突進。
探索者の盾に、
激突する。
「ぐっ――!」
衝撃で、
男が後退。
岩の牙が、
盾を削る。
「硬い……!」
女探索者が、
魔法を放つ。
――火球。
(圧縮した炎を
放つ初級魔法)
だが、
表面を焦がすだけ。
龍斗は、
その光景を
じっと見ていた。
魔物の動き。
呼吸。
踏み込みの癖。
――見える。
◆
「俺が、
引きつけます」
気づけば、
そう口にしていた。
「は!?
無茶だ!」
制止の声を、
背に受けながら、
龍斗は前に出る。
ストーンハウンドが、
標的を変えた。
地面を蹴り、
突進。
龍斗は、
横に走り、
柱の影に滑り込む。
岩の体が、
柱に激突。
砕ける破片。
その瞬間、
龍斗は
背後に回った。
短剣を、
全力で
叩き込む。
だが――
弾かれる。
「……硬すぎる」
ストーンハウンドが、
振り向き、
爪を振るう。
龍斗は、
床を転がり、
紙一重で回避。
背中が、
壁に当たる。
逃げ場がない。
その時、
胸の奥が、
熱を持った。
――壊せ。
誰かの声。
龍斗は、
無意識に
踏み込んだ。
短剣を、
逆手に持ち替え、
同じ場所を
連続で突く。
一度。
二度。
三度。
ヒビが、
入る。
「……!」
探索者たちが、
息を呑む。
四度目。
刃が、
岩を貫いた。
ストーンハウンドが、
悲鳴を上げる。
龍斗は、
そのまま
深く突き入れた。
内部の核――
魔石。
それが、
砕ける感触。
魔物は、
崩れ落ちた。
◆
静寂。
探索者たちは、
言葉を失っていた。
「……評価、
できねえな」
先頭の男が、
呟く。
「Fランク?
嘘だろ……」
龍斗は、
肩で息をしながら、
短剣を見つめていた。
手が、
震えている。
怖かった。
だが――
同時に、
確かな高揚があった。
戦いが、
嫌じゃない。
それが、
何よりも
恐ろしい。
「君……
名前は?」
「荒神、
龍斗です」
その名を聞いた瞬間、
ダンジョンの奥で、
何かが
低く唸った。
まるで、
名を呼ばれた
かのように。
竜神の力は、
まだ眠る。
だが、
世界はすでに
気づき始めていた。
――この少年は、
評価不能だと。
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