第2話
「メッセージ」
有本と別れたあと、
中村は気づけば早足でショッピングモールを出ていた。
誰に急かされているわけでもない。
ただ、そこに居続けるのが、妙に耐えられなかった。
――ああ、そうか。
有本がいないショッピングモールって、
こんなに広くて、こんなに静かだったのか。
さっきまで人混みの中で感じていた温度が、
嘘みたいに消えている。
今まで頭の中で組み立ててきた「この後」のプランが、
音もなく崩れ落ちた瞬間だった。
勝手な想像だと分かっていても、
寂しさは、きちんと残った。
有本は、モールを出たあと家族とファミレスに入った。
中村と過ごした時間を、
特に隠すこともなく話すと、
母はにこにこしながら相槌を打ち、
父はなぜか黙って横を向いていた。
「そうか」
しばらくして、父はそれだけ言って頷いた。
――なに、その「同じ男にしかわからない」みたいな反応。
少しだけむずがゆくなって、
それ以上は深く考えないことにした。
中村は帰り道、
人の流れの中でふと足を止めた。
――あれ、同じ学校の子じゃないか?
いや、違う。
たぶん、似ているだけだ。
でも、もし同じ学校なら、
少しは有本のこと、知っているかもしれない。
マンガやゲームの好みは分かっている。
でも、それだけだ。
また誘えるきっかけは、あるのか。
プレゼント代を出したときの反応を思い返す。
悪くはなかった。
でも、決定打でもなかった。
次のゲームのために貯めていたお金は減った。
それでも――まあ、いいか。
これが、自分の生き方だ。
有本は、無事に友達へ誕生日プレゼントを渡していた。
喜ぶ顔を見て、胸の中で小さくガッツポーズ。
浮いたプレゼント代は、まだ使っていない。
――カラオケ、また誘おうかな。
そう思った矢先、
有本は怒っていた。
「なんで!この曲は!こんなに!難しいの!」
画面に叩きつける指。
音ゲーは、佳境に差しかかっていた。
いいところまでは行く。
でも、あと少しが届かない。
「パーフェクト取らせる気ないでしょ、これ……!」
何度も失敗して、
それでももう一回。
集中している間だけ、
余計なことを考えずにいられた。
一方、中村は考えていた。
家族仲がいいのは、いいことだ。
素晴らしい。
……そして、僕は一人になった。
そんな自嘲が、胸に残る。
女の子の考えていることは、やっぱりよく分からない。
そもそも、女子が少ない学校だ。
情報が圧倒的に足りない。
――あの似ていた子。
もしかしたら、有本のことを知っているかもしれない。
名前は……千代田。
確か、LINE交換していた。
⸻
音ゲーを一区切りつけた有本は、
満足げにスマホを置いた。
「できる子なのよ、私は」
一人で勝ち誇りながら、
ふと通知に気づく。
――中村から?
「今、通話できるかな?」
忙しい。
今は無理。
短く「あとでね」と返して、
また画面に集中する。
今は、このリズムを逃したくなかった。
中村は、返事の来ない画面を見つめていた。
気にならないわけがない。
でも、ここまで来てLINEで済ませるのも違う。
気持ちは、直接言うべきだ。
通話は……重いか。
メッセージをもう一度送る?
――しつこいって思われたら?
そんな想像が、頭をよぎる。
結局、送ったメッセージを削除した。
逃げた、というより、
踏みとどまった。
その夜、有本は風呂に浸かりながら、
ぼんやりと天井を見上げていた。
さっきの曲は、やっぱり難しかった。
でも――
中村なら、ああいうの好きそうだ。
変なところで凝るし、
たぶん、ハマる。
あのマンガも、きっと好みだ。
……なんで、思い出してるんだろ。
「まあ、いいか」
面白いものは、共有したいだけ。
それだけだ。
ふと思い出して、LINEを開く。
――あれ、消えてる。
まあ、そのうち聞けばいい。
結局、夏休みに入っても、
有本はあの削除されたメッセージの真相を聞かなかった。
中村も、有本と会うことはなかった。
二回目のデートは、幻のまま終わった。
それでも、千代田に相談することだけは、
なんとなく続いていた。
季節は進み、二学期。
何も起きないまま、
時間だけが、いつも通り過ぎていった。
けれど――
何もなかったわけじゃない。
気づかれないまま、
心の中には、確かに「続き」が残っていた。
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