99.執筆後記
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。書き手の栗印緑です。
ようやく、よーうやく、竜の峰の本編に当たるお話をひとつ、書き上げることができました。外伝も含めた中で、一番最初に書きはじめた作品です。スコウプというキャラクターを初めてイメージしてから、30年以上。どうしてこんなに掛ったんだ?とか、こんなに期間を置いても書けるものだな!とか、いろんな意味で、我ながら本当に驚いています。
キールの登場する本編については、時系列順に書くか、いろんなエピソードを書きたい順に書くか、決め切らないままここまで来てしまいました。書きはじめたのは当作品が先でしたが、同時進行で、スコウプが山頂に到着した際のエピソードも書き進めています。
時系列という点では外伝のスコウプの旅のほうが先で、そちらを完成させてから、という思いもありました。が、書けば書くほど構想が広がり、私が小説を書けるうちにすべて書ききれるものか、もはやわかりません。であれば、書きたいものを書きたい順に書いて出す、そのほうが良いと判断しました。
時系列を無視した際に気になってくるのが、キャラクターの整合性です。特にスコウプについては、外伝の旅先でどんな経験をするのか私自身が正確に把握しないまま、その先の姿を描くことになります。おおまかな旅路と行動は決まっていますが、詳細やその際にスコウプ自身が抱いた感情の度合いなど、私自身も未知数の部分が多くあります。たぶん、私が今知っている以上に、多くを経験し、受傷もすることでしょう。
また、外伝をお読みくださっている方は驚かれたかもしれませんが、スコウプの性格が少々異なっています。なにしろ本編の彼、笑いますし。けれど実際、こちらのスコウプか本来のスコウプです。仏頂面で常にイライラしている外伝のスコウプをどう揉みほぐしてここまで持っていくかが、今後の課題ということにもなります。
ただ、外伝は一人称、本編は三人称という違いもあります。自認と客観の違い、と言ってもいいかもしれません。例えば、以下は外伝『フラファタ事件』の一説です。
↓↓↓引用ここから↓↓↓
これほどの品々、礼のひとつで貰ってしまっていいのだろうか。俺が問うと、ウォルス卿は申し訳なさそうに首を振った。
「ひどい怪我をさせてしまったばかりか、領内の長年の懸案を解いてもらったのだ。スコウプ殿にはいくら感謝してもしきれない。それに……」
ウォルス卿の視線がプライムへ向かう。
「期待させてしまってすまなかった。私の力では、奥方を助けることは叶わなかった……」
↑↑↑引用ここまで↑↑↑
これを三人称で書くと、おそらくこうなります。
↓↓↓改変ここから↓↓↓
「い、いいのかこんなに貰っちまって。立派な馬に、でかい馬車まで……」
思わずうろたえたスコウプに、ウォルス卿は申し訳なさそうに首を振った。
「ひどい怪我をさせてしまったばかりか、領内の長年の懸案を解いてもらったのだ。スコウプ殿にはいくら感謝してもしきれない。それに……」
ウォルス卿の視線がプライムへ向かう。視線を追って、スコウプもまたプライムを見た。悲しみと愛おしさを同時に滲ませる、複雑な表情。
「期待させてしまってすまなかった。私の力では、奥方を助けることは叶わなかった……」
↑↑↑改変ここまで↑↑↑
視点の違いで、この程度の温度差は出てきてしかるべき、とは思っています。逆に言えば本編も、スコウプの一人称に書き換えればもう少し、表情に乏しくなるのかもしれません。
とはいえなるべく、外伝の最後までにはこの温度差の範囲に収まるよう、喜怒哀楽のはっきりしたキャラクターに成長させていかなくてはいけません。頑張りどころです。
さて、ここからは、30年以上前のお話。スコウプやキールの誕生秘話、とでもいいましょうか、若かりし頃の私の思いつきの話です。
もともと、手塚治虫のブラック・ジャックを読んで、医療系のお話に憧れていたところはありました。最初のテーマに人面疽を選んでいるのも、あるいはブラック・ジャックの初期作品からのイメージだったかもしれません。でも、手塚治虫先生と違って、大学生の私には医療知識があまりにも不足していました。それならファンタジー世界の魔法医にしちゃえ、というのがキールのおおもとの出自でした。
実はキールの長い髪は、ドクター・キリコのイメージでもあります。キリコは、私としてはもっと魅力的に描けたはずだと感じているキャラクターの一人。でも、倫理を犯す悪役を、カッコよくするわけにはいかなかったのでしょう。ファンタジー世界なら、法も倫理もある程度、感覚値で匙加減ができます。これもファンタジーを選んだ理由の一つでした。
さらにもう一人、キールには元となったキャラクターがいます。エメラルドドラゴンというゲームの、ワラムルというキャラクターです。長い金髪、ファンタジー、魔法医と、かなりの要素が被っていますね。クセのある性格という点でも共通していますが、性格そのものは、あまり似ていません。キールのあのやたらにふんわりとした雰囲気だけは、何を由来としたのか、もはや思い出せません。
スコウプについては、強烈な一つの原点があります。あかほりさとるの爆れつハンター、キャロット・グラッセ。危機においては獣人化して大暴れ、しかし制御ができず、鞭打たれて気絶するしか戻る術がない、というキャラクターです。初めて出会ったとき、こういうの絶対やりたい!やってみたい!と思ったものでした。まさか実現するのに30年以上の年月を要することになるとは思ってもいなかったのですが。
明確に30年以上、となぜ言い切れるかというと、私が爆れつハンターに出会った日がデータとして確実に追えるからです。1992年12月。これは月刊電撃コミックガオ!創刊号の発売日です。創刊号だというから買ったのに、連載途中の漫画ばかりだったことに驚いたのも、今や懐かしい思い出。そんな連載途中の作品の一つが、爆れつハンターでした。雑誌そのものはあまり長くは購読しなかったので作品全体についてはよく知らないままなのですが、モチーフとしての『元にもどるのがしんどい変身』は、私にとってスコウプの存在意義ですらあります。
30年の時を経て、私の中でキールもスコウプも、当初モデルとしていたキャラクターに似ても似つかないものとなりました。本当はもっと詳細に、キールの菓子作りやスコウプの三日間など、逐次実況できる程度にはイメージがあるのですが、さすがに冗長になりすぎるので割愛しています。スコウプが血泥に沈むのはこれが最後ではないはずなので、これからも小出しにしていければと思います。
私の書きたい意欲には本当に波があって、コンスタントに作品をお出しできないのが残念なところ。ですが、なるべく書き続けるためにも、飽きて嫌にならない程度を探りつつ、ゆっくり続けていきたいと思います。次は、外伝の続きか、本編の最初のエピソード、あるいは箸休め的な短編か、全然違う時代のお話かもしれません。その際はぜひ、またお読みいただければ幸いです。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
2026.01.17 栗印 緑
竜の峰の医者 腹に巣食う顔 栗印 緑 @souzo17mm
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