2.少女の来院
その日、毎朝の日課であるプライムの診察を終えてキールが居間へ戻ると、幼いチェルがひとり、今にも泣き出しそうな瞳でキールの足元に飛びついてきた。五歳足らずと見える身体いっぱいに不安を表わしている。
「患者さん……ですね?」
スコウプよりやや長い黒髪を撫でられて、チェルは小さく頷いた。後から来たスコウプが、キールの目配せを受けて憮然とした表情を見せる。
「……わかったよ」
スコウプは進み出て、扉の掛け金を外した。扉の外は魔物の巣窟。いつでも斬りかかれるように、腰の剣には利き手がかかっている。一見何の変哲もない掛け金だったが、スコウプが触れるとびっしりと刻まれた魔文字が微かに青白く光った。
「チェル、もうちょい下がってろ」
言いながら、スコウプは分厚い木製の扉を押し開けた。
「……!?」
少女がひとり、戸口に立っている。
「あなた……キール先生……?」
おずおずと、少女はスコウプに言った。特に外傷は見あたらない。
「いや、俺じゃねぇけど……。あんた、ここまでどうやって……」
言いよどむスコウプ。少女はうつむいた。
「とにかく…… 、中入ってくれ。外じゃ、危ねぇから……」
招き入れようと手を伸ばしたスコウプを、少女は激しく拒絶した。
「近づかないで!!」
幾筋もの乾いた涙の上を、新しい雫が伝う。
「触らないで……。殺したくない……」
スコウプはがりがりと頭を掻いた。振り返って、まるで動じる様子のない庵の主人を見上げる。
「キールよぉ……」
キールは進み出て、少女にふわりと一礼した。
「私がキール・メディウスです。お嬢さん、このような辺境の庵に、どのようなご用件でしょう?」
少女はくすんだ藍色の瞳でキールをしっかりと捉え、次いで両手で顔を覆い、激しく泣きはじめた。
「先生……キール先生……、私……私……、死ぬ薬が欲しいの……!!」
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