第10話 帰還の後に

あれから、どれくらいの日が過ぎただろうか。

いまだ、眼鏡の友にも角刈りの友にも会えていない。


今日も今日とて働く。私単体で見れば代り映えのしない日々。


私は、眼鏡の友と角刈りの友の2人と一緒に遊べども、詳しい交友関係は全く知らない。

だから誰に連絡できるわけでもなく、警察に連絡しても頭のおかしいヒト扱いされるのがオチだろう。


彼らの家族から警察へ失踪届が出されているのであれば、警察から私に連絡がくるはずなのだ。

最後の足跡である滝行の予約を調べて。日本の警察を侮ってはいけない、優秀だ。この程度すぐに調べ上げる。

それなのに未だ何の連絡もないのは、異界系の怪談によくある存在ごと抹消のアレなのかもと思ったこともある。

ただ、私のスマホには2人の連絡先が残っている。

かけると、不思議と「使われておりません」とはならないので、抹消はされてない・・・はず。

なので、応答してくれるまでかけ続ける以外にない。


何十回目かの連絡確認。またダメだなと思い通話を終了させようとすると・・・つながった。

びっくりしたと同時に聞きたいことが山ほど頭に浮かぶ。だが焦って言葉が出てこない。

あーだの、うーだの言ってると向こうから「直接会わないか?」と提案してくれたので快諾した。


待合場所として指定された町中のコーヒーチェーン店に向かう。店内を見渡せばすぐ見つかった。

『お早いお着きで』

コーヒーを片手に優雅に本を読んでいた。前と変わらない所作に見える。

「眼鏡の友。君の方こそね」

店の入り口にあるカウンターで購入したホットコーヒーをテーブルにおいて、ニュー眼鏡の向かいの椅子に座る。


『さて、なにから話そうかね。』

本を机の上に起き、私に向き直る。

「じゃあまず・・・君はどっち?」

『どっち?ああ、これでわかるかな?』

眼鏡の友の頭の右側に角が見える。ニュー眼鏡の方か。

「もう一人の眼鏡の友は?」

『あちら側に閉じ込めてあるよ』

「じゃあ、角刈りの友は?」

『んー、彼ね・・・彼はねぇ。あっちで元気にやってるよ。』

「あっちで元気に?」

『ん、そう。こっちに来るとき彼に聞いたんだけど、あそこで遊んでる方が楽しいんだと。彼は本当にヒトなの?我々のお仲間といった方が納得できるんだけど。』

「あんなことが出来るなんて、私も知らなかった。」

『まあ、そうだよね。別にこちら側との行き来はいつでもできるし、気が向いたら戻ってくるかもね。』

「そうなんだ。」

自分の意思であそこにいるなら口を出すことではないかと思いながら、コーヒーをすする。


『・・・詳しく知りたい?』

「教えてくれるの?」

聞きたいことは山ほどあったはずなのだが、どう聞いたらいいのか言葉にできない。

『まずは角刈りの友とキミを連れてったのは偶然ではなく意図があってのこと。といっても、ヒトの感覚で言う自分のおもちゃを持って帰るってのが一番近いかな。壊れたら新しいのが欲しくなるでしょ?』

おもちゃ。ああ、そんな風にみられてたんだな。でも気に入ってくれてはいたのか?


続いてニュー眼鏡はこちらとあちらの世界の行き来について教えてくれた。

曰く、こちらとあちらをつなぐ思いのようなものがあれば行き来が可能らしい。

Wifiの接続でいけたのは、ネット上に異世界転生モノのコンテンツが溢れているかららしい。

こちら側からどこかへ行きたい。そんなのでもいいのか。世界を越えるルールがそんなゆるくて大丈夫なのか・・・。


じゃあ昔はどうだったの?と聞くと、仏教徒が地獄を強く信じていたからつながっていたんだと。

憎いあいつを地獄に堕として欲しいとかも有効になるんだとか。

あー、異世界転生モノでいけるんだもんな、地獄の方がまだ説得力がある。

というか、有効ってなんだ。

で、なんで角刈りの友がそれを知っていたのか聞いてみた。大きいのが教えたんだと。

逃げれるものなら逃げてみろ的な?それとも、戦闘狂同士、通じるものがあったのかね。戦いの報酬前払いとか。わからん。


この後もニュー眼鏡は一人でこの世界をぶらつき、あちらの世界に行ってもいい奴を探すんだと。

ネットで探したら結構いるかもよ?と助言しておく。この都市伝説は不滅だな。いや、現実だから伝説でもないか。


そもそも起点が駅だったのは、地球上で公共の移動手段利用頻度が一番高いのが日本の鉄道だからなんだと。

よくわからんし、真実かどうかも知らない。

【鬼攫(きさら)】の儀を行うと、移動手段を介してヒトをあちら側へ召喚できるらしい。

そして雑なRPG風に言うと、なぜか全員帰るためのアイテムをもった状態で召喚されるんだって。

だから気づくか運が良ければ帰れる。


あちら側で過ごした時間は、こちら側とは無関係なんだって。

戻る時の日時は願望だったり無意識下の経過時間が反映されるんだと。

そういや私だけ帰ってきて電車の中で目を覚ましたけど、集まった日と同じ日だった。


角刈りの友が帰ってくるとき、矛盾するんじゃないかって?

ニュー眼鏡いわくあちら側へ行った時点で世界が分岐するんだと。

ということは、この世界は角刈りの友が帰ってこない世界なのか?遅れて帰ってくる世界なのか?

考えたところで答えは出ない。なんでもありってことで考えるのを止めた。



ちなみにニュー眼鏡はつい1時間ほど前にこちら側へ来たらしい。

こちら側から電話をかけてもあちら側につながるんだと思い、ニュー眼鏡に尋ねたが、つながるはずはないと言われた。

ニュー眼鏡のスマホを見せてもらったが、確かに着信履歴には1件しかなかった。

見せてもらったスマホからニュー眼鏡に視線を移す。

その視線のさらに上、視界の端、ニュー眼鏡の背後にボロボロの服を着た男が立っているのに気づく。


その男は、ゆるりと私の斜め前まで歩き出てテーブルに手を置き、やや前かがみで顔を私に近づけてこう言った。

「んー、10万年・・・いや、もっとか。やっと出れたよ。社畜、ゲームの続きしようぜ。あちら側でな。次こそ僕が勝つ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

鬼攫(きさら) たぬ川たぬ吉 @TanukawaTanukichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画