4枚目 異世界でもピザは作れる!?

「いらっしゃいませ!」

ヒサミの元気のいい挨拶が宿屋に響く。


あれから一ヶ月が経った。

ヒサミが宿屋の仕事に慣れるのにさほど時間はかからず、ものの一週間で戦力として数えられていた。

おまけに時間が空けば農場や牧場にも手伝いにいくほどのバイタリティ。


ミルフェル村は元々行商人や冒険者が行き交う農村地なこともあって、よそ者に抵抗感がない村だ。

なので、その働きぶりに宿屋のみならず、村全体で一員として受け入れられていた。


そんな穏やかな日々のある日…

「ポーラ、今日、キッチン借りて良い?」

「んぅ? 何するの~?」


暇が出来たのに手伝いに行かないヒサミ。

キッチンで何がしたいのか気になるのは当然のことで…


「実は… オレが来た日にポーラに食べてもらったピザがあるだろ?」

「あ!アレかぁ! アレ美味しかったな〜…」

思い出して恍惚とするポーラと、それを見て笑うヒサミ。


「宿屋とか農場とかで手伝いして材料集めてさ、今から作ろうと思ってるんだけど」

「ピザ、この村で作れるのかな? … 私、見てて良い?」

「ん?良いよ、ありがとう。でもまず、自分でやってみる」

「わかったー。頑張ってね!」


「とにかく、まずは何にしても生地からだな…」

そう言って、賃金で買ってきた小麦粉を見つめる。


三度の飯よりピザが大好きなヒサミ。

無論、自分でもピザを焼いた経験はある。


まず、小麦粉にくぼみを作って、イースト菌を入れる。

白パンがあるんだから当然といえばそうだが、普通にイースト菌が存在してた。

ただ、ポーラ達は菌ではなく、パンが膨らむ粉として認識しているようだが。


ぬるま湯を注ぎ、イーストが溶けたら塩、オリーブオイルを入れて混ぜる。

混ざったら打ち粉をしながら生地を捏ね、なめらかになればひとまとめにする。


…のが、正しい作り方なのだが、


「…あれ?」


水を入れてもやけにパサつく。

足りないのかと思って水を足すが、今度はベタついてしまう。

捏ねても上手くまとまらない、弾力が出ない。すぐ切れる。


前にやったやり方と同じなのにな。

何故上手くいかないのか考えて… 理由に気づく。


小麦粉が違う。


小麦粉は小麦の品種によって性格が大きく異なる。

粒度や、グルテンの量など、小麦粉1つで大きく違う。


ヒサミは目の前のこの小麦粉について何も知らない。

ここにきて、異世界の壁にぶつかってしまった。


悩んでいると…

「…ちょっと手を出すね」


横からポーラが割り込む。

無駄のない手つきで、水を少しずつ入れ、生地をこね始める。

「ミルフェル小麦粉は吸水が遅いから、一気に水を入れないほうが良いんだよ」

「私もね、上手くふくらませるまで何度も失敗したなー」


そのままヒサミがやろうとしてた動作を正確にこなし、

あっという間に生地が出来た。


「あとは発酵させればいいかな?」

「あぁ、ありがとう。 手間かけさせて悪かったな」

「いいんだよ!私も、またピザ食べたいから、遠慮なく頼って!」


その言葉に、ヒサミは思わず嬉しくなってしまった。

「ありがとう、次から何かあったら相談するよ」


「じゃあ、発酵するまでに間に、トマトソースを作ろう」

そう言って鍋を取り出す。


「トマトを潰しながらすりおろしにんにくとオリーブオイルで煮詰めていく」

「水分があると生地がビシャビシャになるから、塩で味を調整しながら、15分くらいじっくり徹底的に」

しばらく煮詰めると、濃いソースが出来上がる。


「良い匂~い」

「少し冷めた方が美味しいから、このまま放置するとして…」


しばらく経つと…

「生地、膨らんだよー。このくらいで良い?」

「おっ!綺麗だな〜! じゃあ、これを、端を潰す」

「つ、潰す…」


薄い生地だから予想はついていたが、慣れない工程に意外な反応を見せるポーラ。

しかしこれでは終わらない。


「続いて、叩くッ!」

「叩くッ!?」


パンパンパンパンパンッ!!

両手で生地を往復させるように、八の字を描くように叩く!!

これにより効率的に生地が伸びるのだ!!

あまりにも文化の違う生地の扱いに、ポーラは目を丸くしていた!


「ポーラの作った生地凄いな〜! 伸ばしても破けない!」

「あ、あはは、役に立ってよかったよー…」

潰して叩きまくる生地への扱いに、ポーラはカルチャーギャップを受けていた。


「生地も出来たことだし、次はトッピングだな」

キッチンに材料を広げる。

用意したのは、トマト、水チーズ、バジル、オリーブオイル。

「豊かな農村地で助かったなー。似たような野菜が手に入って良かった」


水チーズというのは、出来立ての伸びるフレッシュチーズだ。

ほとんどモッツァレラに近いチーズなので、完璧にマルゲリータになるだろう。


今更だが、トマトやバジルと言った名称のモノは、

あくまで似ているものだが、ヒサミの耳には同じ名称として聞こえる。

異世界転移特有の翻訳的なものだろうか?まぁいいか。


材料を見てポーラが疑問を浮かべる。

「あれ、あのピザはもっとお野菜使ってなかった?」

「野菜はともかくサラミが手に入らなかったからなー。 とりあえず今回はミックススペシャルじゃなくて、ピザの基本的なのを作る」

「ふーん、ピザにも種類があるんだ?パンみたいに奥が深いね!」


「まずは、トマトソースを塗る。レードル(お玉)の底で、均等に」

「わぁ!綺麗に広がるねぇ!」

慣れた手つきで白い生地に真っ赤なトマトソースが広がっていく。


「で、トマトスライスを乗せる。その上にフレッシュチーズを乗せる」

「ほうほう」


「で、後はオーブンで焼くだけ、なんだけど…」

キャンプ先で、石窯で焼いた経験自体はある。けど…


「上手く焼けるように、一緒に見てくれないか?」

「いいよ!」

自分より窯に慣れているポーラにも頼ることにした。


2人でじっくり様子を見ながら5分…


「生地が薄いから、これ以上は焦げちゃうね」

「よし!出すぞ!」

すぐさま取り出すと、ジュワァとチーズが音を立てる。


「最後にバジルをちらして…」

トマトの赤、チーズの白、バジルの緑。

出来上がったのは…


「これがピザの基本! マルゲリータ!」

「おぉ〜!お姫様みたいな名前だね!美味しそう!」


ピザカッターが無いので、包丁で切り分けて…

「それじゃ!いただきまーす!」

「いただきまーす!」


2人同時に食べる。すると…


「「おいしい~~~!!」」


トマトのフレッシュな酸味、バジルの香り、チーズのコク。

そして何より小麦の柔らかな甘みが口の中で調和を生み出す。

初めて作ったとは思えない出来だ。


「ありがとうポーラ! オレだけじゃこうはいかなかったよ!」

「いやいや!ヒサミさんの発想が無いと作れなかったよ~!」


喜び食べながら褒め合っていると、あることが気になってきたポーラ。

「ところで、どうしてピザ作ろうと思ったの?」


それを聞くとヒサミは照れくさそうに頬を書く。

「あー、自分が食べたかったのもあるんだけど…」

「ピザ食べてもらった時、ポーラ、喜んでただろ?」

「だから、また食べてもらいたかったんだ」


それを聞いたポーラも、照れくさそうにうつむく。

「…えへへ、嬉しいな」


お互い照れくさい空気になっていた、そんな時に…

「おうどうしたんだ2人とも?」

「えらい盛り上がって仲がいいじゃないか!」


盛り上がりを聞きつけたポラリスとポリーヌがやってきたようだ。


「お父さん!これ美味しいよ!食べてみて!」

「なんだなんだ? 薄いパンの上に、トマトとチーズ乗せたのか? 珍妙なもん作ったな?」

「だけど可愛い娘が作ったってんなら、食べてみようかね」


口に入れてみる2人。

少々咀嚼すると、目を見開き…

「うめぇええええ!!」

「美味しいねえ!」


喜ぶ両親。その姿を見て、ヒサミとポーラは顔を合わせて一緒に笑う。


「ポーラ、凄いもん作ったな!」

「ヒサミさんのアイディアだよ!」

「マジか!やるなぁヒサミ!」

「いやぁ、ははは…」

あまりにも褒められるもんだから照れくさくなるヒサミ。


もう一切れつまみながら、ポラリスは思いついた顔をする。

「なぁ、これよ。ウチの商品にしねえか?」

「ははは… え?」


「そりゃあいいねぇ!絶対売れるよ!」

「うん!私頑張るよ!」

勝手に盛り上がり話を進めるフラワハンド家。


最初は困惑していたヒサミだが、

自分の好きなピザをみんなに知ってもらえるかもと思うと、

やる気が出てきた。

「… やってやるかぁ!」


それが、この世界にピザが生まれた日。

やがてミルフェル村がピザの村になること。

そして世界中でピザが大流行することを、

ヒサミはまだ知らなかった。

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2026年1月17日 20:00
2026年1月17日 20:00
2026年1月18日 20:00

異世界デリバリーピザ~世界の果てまでお届けします!~ 来牙タカヒロ @KurugaTakahiro

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