2枚目 異世界で初めて食べるピザ!

「配達ルート、間違えてるーーー!?」

唐突な絶叫が響く森の中、白熊少女は絶句していた。


「だ、大丈夫…!?」

「ご、ごめんごめん… 随分遠くまで来ちゃったのにビックリして…」


そういえば白熊少女は田舎宿屋の娘って言ってたな。

近くに宿屋があるのかもしれない。


「実は事故に巻き込まれて… 気がついたら森に迷い込んでて…」

「それは… 大変でしたねぇ… それで気が動転してたんですね…」

「だから、よかったら宿に案内してくれないかな?」

「うーん。いいよ、ついてきて!」


少女は案内し始め、ヒサミはバイクを押しながらついていく。


「そうだ、名乗ってなかったな。オレ、丸山 久味… ヒサミっていうんだ」

「ヒサミさん? 私はポーラ・フラワハンド、田舎宿屋の娘だよ」


少し歩くと、土地に馴染んだ風体のレンガ様式の建物が見えてきた。

「ここがウチの宿屋です! ちょっとお父さんたちと相談してくるね」


ポーラが宿屋に入っていき、外でしばし待つヒサミ。

しばらくするとポーラと、そのお父さんであろう巨漢の白熊獣人が出てくる。


「おう、ポーラから話は聞いたぜ。エライ災難だったみたいだな。とりあえず一晩泊まってけ」

「ありがとうございます! 代金は…」

「今日はいいよ!とにかく入りな!」


傍にバイクを留め、荷台から荷物をおろして宿屋に入る。

宿の中はファンタジー世界の様相であり、質素で落ち着く雰囲気。


やっと腰を落ち着ける場所が出来て、ヒサミは力が抜けた。

同時に、ぐぅ、とお腹が鳴る。

「…腹減ったー… 朝からずっと食べてないもんなー…」


同時に、コンコンとノックが鳴る。

「ヒサミさん、ポーラです。入っていいかな?」

「あ、いいよー」


ポーラは部屋に入ってくると、バスケットに入ったパンを持ってきたようだ。

「お腹空いてると思って… 私の焼いたパン、残り物だけどよかったらどうぞ~」

「えっ!?いいの?ありがとう!」

パンに喜ぶヒサミは、ふと思い出す。


「あ、そうだ」


荷台から下ろした荷物の中から、ピザ箱を取り出す。

「さっすが弊社の保温プレート。まだ温かいや」

社割で買ったのを持ってきた自分のピザだ。


「じゃあポーラ。パンのお礼に、良かったらコレ一緒に食べない?」

箱を広げると中から出てきたのは、

ふかふかのピザ生地に、トマトソースを塗って、

オニオン、ピーマン、コーン、サラミを載せて、

たっぷりのチーズをのせて焼き上げた、


その名もミックススペシャル。


それを見たポーラは…

「え、なにこれ!? 薄いパンに… 野菜と、干し肉?と、チーズ… 乗せて、焼いたのかな!? こんなの見たことない! ホントに食べていいのコレ!?」

と未知の食べ物を考察しながらも目を輝かす。


「(あ、この辺、ピザないんだな…)」

ちょっと落胆したけど、それよりもポーラが目を輝かせる姿を見てなんだかおかしくなってしまった。


「ピザっていう食べ物なんだ、気に入るといいんだけど」


「それじゃ、いただきまーす」

「いただきます! えっと、切り分けるものが必要かな?食器は?」

「もう切れてるから掴むだけで良いよ」

「へぇ〜、便利だねえ。じゃあ…」


そぉっと端を掴むと、チーズが糸を引いて伸びていく。

その先端をかじると、口の中に広がるのは、

トマトソースの酸味、オニオンの甘み、ピーマンのフレッシュな苦み、サラミの塩辛くも肉の味、そしてチーズの旨味…!

さらに、耳までパリパリとふかふかしていて美味しい!


「はふっ、あっつ、おいし…!」

思わず夢中で食べるポーラ。

既に二切れ目に手を伸ばそうとして、

ヒサミをチラッと申し訳なさそうに見る。


「あ、いいよいいよ。先に食べてて」

「えへへ、すみません…」

改めて、ポーラは二切れ目を手に取った。


それを見ながら、ヒサミもポーラにもらった丸パンを割る。

すると、残り物とは思えないほどふっかりと裂けて、

ポーラの毛並みのような真っ白な生地が顔を出す。


一口食べると、弾力がありつつも簡単に噛みちぎれて、

噛めば噛むほど小麦の確かな甘みが広がる。

思わず2,3個食べてみるけど、どれも安定した味。

シチューと食べたらきっと美味しいだろうけど、このパンだけでも満足感が高い。


水と小麦の配分が良いのか、練り方が良いのか、焼き方が良いのか…

パンに関しては素人のヒサミだが、東京の一等地で売っててもおかしくないと、

そう思える出来のパンだった。


「うっま…! 凄い美味いよこのパン!」

「え?えへへ、毎日焼いてるパンだけど、喜んでくれてよかったぁ」


気づけばピザはもう既に半分になってた。

「あんまり美味しいものだから、つい… ヒサミさんのなのに、ごめんなさい」

「いや、喜んでくれて嬉しいよ。オレの大好きな食べ物だから、なおさら」


残りのピザを平らげるヒサミ。

「(うん、美味い。いつも食べてるピザラッタの味だ。)」


だけど、当分はピザラッタのピザは食べられないだろうなと思うと、少し寂しさがあった。

でも、ポーラに喜んでもらえて嬉しいというのは間違いない本心だし、分けたことに後悔はない。


「じゃあ私はこれで。ピザ、だっけ?食べさせてくれてありがとう」

「オレも、良いパン食べさせてくれてありがとう。おやすみ」

「うん、おやすみなさーい。よく眠れますように」


扉が閉じると、ヒサミはそのままベッドに身を投げた。

思えばクリスマス働き通しで、森の中を彷徨った後だ。


「(さすがに疲れた… でも、明日から、異世界暮らし…)」

瞼が重くなっていき、そのまま、意識が闇に包まれるのだった。

パンとチーズの香りが、部屋を包み込みながら…

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