異世界デリバリーピザ~世界の果てまでお届けします!~
来牙タカヒロ
1枚目 宅配ピザで神隠し!?
時はクリスマス、現代日本の東京。
街のあちこちでクリスマスソングが流れる中、
宅配ピザチェーン店のピザラッタ池袋店は戦場と化していた。
鳴り止まぬ注文の電話、敷き詰められるようにオーブンで焼かれるピザ、次々出動するバイク。
行き着く暇も止まる気配もない様子はまさに地獄の様相だ。
そんな中で人一倍働く青年がいた。
青年の名は丸山 久味(まるやま ひさみ)
三度の飯よりピザが好き。好きすぎてピザ屋のバイトに入ったくらいだ。
「ただいまー!レタスとトマト買ってきましたー!」
青年が配達の帰りに最寄りのスーパーで買ってきたレタスとトマトの山を店長に渡す。
「おぉ!思ったよりサラダの注文が多くて切れそうだったんだ!助かるぜヒサミ!」
「ご予約の数的にコレで足りると思います!」
「次5件配達なんだが行けるか?」
「もちろんです!バリバリ任せてくださいよー!」
すぐさま焼けたピザの入った箱をバイクの荷台に詰めていき、出発する。
そんなことを繰り返し、夜の23時前、閉店も近くなった。
残すはあと一件なのだが、場所は配達範囲ギリギリの寂れた地区。
街灯も少ないこともあり、みんな思わずためらってしまう。
にも関わらず、ヒサミはサッと伝票を受け取る。
「オレ行ってきますよ!みんな閉店準備してて!」
「おい、大丈夫かヒサミ?」
「今日はクリスマス!ピザを楽しみにしているお客様がいるんです!なら、届けるのが宅配ピザでしょう!」
出発準備を始めるが…
「ヒサミさーん、社割のピザ焼けましたけどどうします?」
「あ、そうだった… 向こうで食べるから持っていくわ!!」
そのままヒサミは本日最後の宅配に出る。
心配そうに見送りながらも、他のスタッフたちは閉店準備を始める。
「ヒサミ先輩凄いよなー。調理も宅配もバリバリこなすし」
「今日で20連勤だっけ?ヤバ」
「なんでも、来年正社員の話も来てるらしいぞ」
「マジかー。店長が頼り切りになるぐらいだもんなー」
雑談しながらも閉店準備を始めるスタッフたち。
ふと、噂好きな女子バイトが思い出したように話し始めた。
「そういえば知ってる?噂なんだけど…」
「ヒサミ先輩が行った辺りにあるトンネル、近道だけどさ…」
「夜中に通ると、神隠しが起きるんだって」
…
クリスマスの華やかさも無い地区。
ヒサミは安全運転の速度を保ちながらも迅速に配達しに行く。
「ピザラッタでーす!ご注文ありがとうございまーす!」
最後のご注文を難なく終え、帰りのバイクを走らせていた。
「ふぅー… さすがに真夜中は冷えるな… さて、帰り道はっと」
そのトンネルは距離自体は短いはず。
だが、電灯が故障しているのか、奥が見えづらいほど闇が深く、
クリスマスにはそぐわないほど不気味な気配があった。
「…さっきも通ったし、大丈夫だろ」
そう言ってライトを照らしながらトンネルに入る。
入って出るまで、30秒もかからないトンネル。
「よし、もうすぐ出るぞ」
恐怖からの安堵。
しかし、
「■■■■ーーーーーーーーーッ!!!!」
突如響く、まるで獣の断末魔のような耳を裂く声が、トンネルを包み込む。
「え、何だ!? あ、ハンドルが…!」
まるで地面が崩れおちたかのように、ヒサミは唐突な浮遊感に襲われる。
「うわ、うわぁああああ!!!!」
瞬間、眼の前に広がるのは瞬く光の粒と渦。
プラネタリウムに落ちてしまったのかと錯覚するほど、
いや、それ以上に、まるで、宇宙のような光景だった。
前にも後ろにも行けず、ただバイクにしがみつき浮遊に身を任せることしかできない。
そうしている内に、ヒサミは光の渦の中に飛び込んでしまった…
…
突然、視界に飛び込んできたのは地面ッ!!
「うわ危ねえッ!!」
思わずハンドルを切り、スライディングをかましながらも着地!!
あえなく転倒は防げた。
「はぁー… 助かったー…」
そう息をついたのも束の間、
空気がやけに澄んでいることに気づく。
ふと見渡せば、夜中だけど月明かりが差しており、
鬱蒼と茂った森がほんのり見えた。
ヒサミのいた池袋にこんな森あるわけがない。
「えぇー… なんでー…?」
バイクを押して森の中を進むが、
聞いたことのない鳥の鳴き声、見たことのない虫、見たことのない花。
明らかに日本ではない森の中に、ヒサミはいた。
「誰かー… いませんかー?」
あてもなく彷徨っていると、
突然、茂みがガサガサと動く。
そこから顔を覗かせたのは、
白くて、ふわふわの......... 熊!?
「ギャーッ!!」
「ひわぁあーーーっ!?」
思わず悲鳴を上げるヒサミと、それに驚き悲鳴をあげる白熊。
「熊、襲われるッ!? ええと、こういう時は… 死んだふりだッ!!」
「いきなり倒れた!? 大丈夫ですか!? しっかりしてー!」
熊の口から穏やかな少女の声が聞こえてきて、肩を軽く叩いてくる。
そこで見上げ気づくと、白熊は頭に三角巾を巻いて、コックコートにエプロンを着ている。
よく見れば顔こそ熊寄りだが、瞳は人間に近く、体格は少女のように小柄。
いわゆる、獣人の出で立ちであった。
「あの、怖がらなくても、この辺りは魔物が出ないから大丈夫だよ。立てる?」
獣人の少女はヒサミに手を差し出す。
思わず手を掴み、立ち上がる。
「わぁ… 冷え切ってるね… 夜中ずっと走り回ってたの?」
少女の言う通りヒサミの手は冷え切っており、少女の手が染みるほど暖かかった。
冷えた空気の中とは思えないほど、少女の手はまるで湯たんぽのように暖かだ。
「暖かい…」
「ふふ、”ギフト”で祝福された暖かい手だからね。自慢の手だよ~」
毛のふわふわと、手の…特にぷにっぷにの肉球の、血の通った感触。
それにどことなく身に染み付いた小麦の香り。
信じがたいが、着ぐるみの類ではなさそうだった。
でも、害は全くなさそうで、思わず安心してしまった。
「えっと、騒いでごめん。熊のお嬢さんを見るのは初めてだったので…」
「お嬢さんだなんて… ただの田舎宿屋の娘だよぉ?」
くすりくすりと笑う少女。
田舎宿屋、と聞いてヒサミはふと思いつく。
「そうだ。オレ、東京の池袋にいたんだけど、ここ、どこ?」
「トウキョウ… イケブクロ… 聞いたことない村だけど、遠くから大変だったね。ここは、メルカトール王国領の農村地、ミルフェル村の近くの森だよー」
見たことない風景、獣人、まったく聞いたことない地名…
それを聞いて、ヒサミの予感はいよいよ確信になる。
これは、つまり…
異世界だ。
「配達ルート、間違えてるーーー!?」
ヒサミの絶叫が、異世界に響き渡った。
異世界デリバリーピザ! 〜世界の果てまでお届けします!~
はじまりはじまり
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます