第4話 私の『チート魔法』
昼食を終え、片付けも手伝い、屋敷の掃除を再開。
廊下の掃除、そして後回しにしていたトイレと浴室の掃除を終えて、最後にバケツに溜まった汚い水を捨てに庭へ出ると広い場所に二つの人影を見つけた。
アンナとルシアンだ。
アンナが中空に生み出した炎の玉を見て嬉しそうにはしゃぐルシアンは、母の真似をして手を上に掲げている。
ルシアンは学校は嫌だが魔法には興味津々らしい。
しかし、小さな水の玉しか出ない様でアンナから何やら色々アドバイスを貰っている様だった。
ルシアンを産んだのはレイチェルと聞いたが、そういった事で家族間に微妙な距離感やギスギスは生まれていない。
良い家族なのだろう。
そんな母と娘の交流を眺めていると、邸宅の門から「ただいまー!」と女性が聞こえて来た。
レイチェルが魔法研究所から帰って来たようだ。
「おかえりなさい」
挨拶を交わし、レイチェルはアンナとルシアンに気付きそちらにも元気な声で近寄って行く。
ルシアンは「お母さん!」と嬉しげにレイチェルへジェスチャーを混じえ何かを報告していた。
バケツの汚い水を捨て終えて戻ろうとした時、娘と話し終えたレイチェルがこちらへ歩いてきて声を掛けてきた。
「ハジメ〜、今朝の話だけど〜!」
「っ! まさか……!」
その話に覚えはめちゃくちゃある。
私の頭髪から私が持つ魔法について調べてもらうと話していた。
この時の私の顔はニヤついててちょっとキモかったかもしれない。
「ハジメの魔法についての結果が出たわよ!」
「ついに来た私の時代!」
「調子いいわね!」
テンションが上がりながら邸宅内のレイチェルの書斎へと案内される。
ウキウキとした足取りでついていき、様々な魔法の妄想を浮かべながら部屋の中へと入る。
本棚と多くの書物、大量の書類や何なのかよく分からないモノに囲まれた一室。
その真ん中のテーブルの上に、何枚かの紙を広げてその中の魔法陣が描かれた一枚を指差しレイチェルが口を開く。
「この魔法陣に出てる色の種類と数から属性が判別出来るのね。これがハジメの頭髪と手型から出た結果よ」
「はい」
魔法陣の上には大量の白と黒が一定の形で360°に配置されている。
そして彼女は古びた書物を取り出しパラパラと開いて後半のページで手を止めた。
「これ、希少魔法の中でも更に珍しい、文献もほんの少ししか残されてない魔法よ」
え、マジで。
という一言が脳内で溢れた。
心臓の音が更に高鳴り鳴り始める。
早く続きを聴きたくて仕方ない。はしゃぎ出したい気持ちを抑えて、続く言葉に耳を傾けて。
「『創造』――それがハジメの中に宿る力ね。頭の中で空想したモノをだいたい何でも生み出せる凄い魔法よ」
私はよく分からない声を上げた。
――――――――――
異世界に召喚されて強力な魔法を持ってしまった私は、グランヘルム家一同に宴を開かれながら盛大に祝われる。
翌日には『創造』の魔法で頭の中でイメージできるあらゆるモノ、強力な武器を生み出し、やがて凶悪なモンスターや悪の軍団にチートで無双する――
この最強の力で、全てを手に入れる物語が今から始まる……
などと脳内妄想劇場を繰り広げながら、グランヘルム家一同と普通に夕食をとり普通に入浴しアメリアや子供達、レイチェルと雑談を交わし、ベッドの上でも異世界ライフ妄想を続けながら就寝した。
ついに明かされた私のチート能力『創造』――それはイメージしたモノを具現化・生成する希少魔法の中でも更に珍しい魔法。
もう字面から既に何でもあり感たっぷりで強そうだ。ワクワクが止まらなかった。
――翌日。
子供達三人は学校へ登校。ルシアンは一日休んだらだいぶ落ち着いたようで、暫し悩んだ後、「行く」と口にした。
私ならたぶん何日かズルズルと休んだ、偉い子だ。
アメリアと祖父母は今日も農作業、ヘクトール(飼い犬)は庭先で蝶々を追い掛けている。
そして私はクラウス、アンナ、レイチェルのちょうど時間が空いている大人組三人の指導の元、魔法の練習をすることになった
場所は邸宅から十分程歩いた先にある、木々に囲まれた広場。
私はワクワクとした足取りで向かい、心の準備は万端だ。
「私はいつでも良いですよ、先ずは何をすればいいですか!」
「今までで一番やる気に満ちた顔だな……先ずはちょっと落ち着け」
興奮気味な様子にクラウスが少し戸惑っているが仕方ないと思う。漫画やラノベを見て、自分も魔法を使ってみたいという妄想はこれまで何度もしてきた。
そういえば元日本人という事はクラウスも何か希少魔法が使えるはずだ、彼はどんなチート能力を持っているのだろうか。
それも気になるが。
「ついに、私にもチート能力が手に入るんです……ちょっとはしゃいじゃう気持ち、わかりませんか」
「正直気持ちは分かるが、そのアニメかゲームみたいな言い方は……まあいい。あまり調子に乗らない様に気をつけるんだぞ」
「はい」
調子に乗るなと釘を刺されてしまった。
親や先生にも何度か言われたことがある、そんな調子に乗ってるのが分かりやすい顔をしているだろうか。
調子に乗りすぎて失敗しないよう彼からの注意を頭の片隅に入れて、横からレイチェルの元気な声が聞こえて来る。
「準備出来たわよ!」
「おぉ……」
視線を向けた先にあるのは地面の上に書かれた大きな魔法陣と彼女のドヤ顔。厨二心をくすぐる。
魔力の操作をしやすくなる効果がある魔法陣で、学校などでも練習の際に使用されるものだ。と、レイチェルが解説した。
「実戦で扱うには手間が掛かる割に効果が小さいから本当に練習用だわ。でも、百年前にこの魔法陣を巧みに使い新兵部隊が大規模部隊を撃退した逸話が残ってて」
「レイチェル、今は歴史の話じゃなくてハジメの訓練の時間だよ」
「そうね、始めましょう!」
長々と話し始めそうになったレイチェルをアンナが制止し、魔法訓練が始まった。
手招きされ魔法陣の真ん中まで移動する。
ドキドキして鼓動が大きい意外は今のところ普段の自分との違いは感じない。
言われた通り深呼吸し、瞑想――頭から雑念を消し去る。
このまま凄い魔法を覚えちゃったらどうしようか、大冒険を繰り広げたりチートで無双なんかしちゃったり、今日のお昼ご飯なんだろうアメリアが作るらしいがルシアンは学校で大丈夫だろうかミシェルも居るからイジメとかは大丈夫だと信じたいそういえばあのゲームやり途中だったな
あ、雑念消すの難しい。
「……雑念を消すって、具体的にどうすれば……」
「目を閉じて、呼吸だけに意識を集中させるんだ」
「……自分の鼓動がうるさいです……」
「口も閉じて。あと身体が固いよ、力を抜いて」
「はい」
クラウスとアンナからそれぞれ言われた通り、余計な思考をしないよう目と口を閉じて、身体の力を抜いて、自分の呼吸のみに集中。水の呼きゅ――ダメだまた余計な事を考えかけた。集中。
何度も途中で失敗し「めんどくせえ!」とぶん投げようかともちょっと思ったが、興味津々で頑張ろうと思ったものまで投げ出して諦めたら私は本当に何も無いダメ人間。
そして、脳裏に過ぎるルシアンの姿。
あんなに学校を嫌がっていた子が今日は頑張って登校したのだ……もう高校生になった私がすぐに投げ出すなんてダサすぎる。
愚痴りたい口を閉じ、静かに呼吸を続けて、段々と雑念の頻度が減り、少しずつ周囲の音が鮮明に聞こえ始めて来た。
風で揺れる葉、鳥のさえずり、虫の羽音。
頭の中の雑念が消えたら周りの音ってこんなクリアに聞こえるものなんだと気がついた。
そして、いつしか雑念が遮断されたと同時に、アンナの声が聞こえた。
「そのまま利き手に意識を集中させて、右手に魔力を流すイメージを」
魔力を流す……流す、魔力ってどれだ。
「全身の血流が右手に集中して流れてくる、そういう感じでイメージしてみるんだ」
続けてクラウスからのアドバイス通り、雑念が再び沸かない内に右手へ意識を集中させる。血流を全身から右手へ集中的に流し込む様なイメージ。
今のところ自身の変化は特に分からないが……ん?
何か右手が熱い。
「今、その右手を魔法陣に置いてみて」
アンナからの指示通り、右手の平を魔法陣の上に着け、その次の瞬間。
ただ地面の上に削られ書かれていただけの魔法陣が、全体から光を放った。
「ひえぇ、何コレ!?」
突然の発光にビックリして集中が一気に途切れた――が。
レイチェルの嬉しそうな声がした。
「成功ね!」
成功。どうやら成功らしい。
何がどう成功なのかよく分からないが。
「お疲れ様。今のが魔力操作の基本に必要な工程だよ。魔法陣が光るのはハジメの右手にちゃんと魔力が集中してた証拠だね」
「あ、なるほど」
アンナから説明されて納得した。
てっきり『創造』の魔法で何かを生み出すところまでで「成功」だと思っていたが、物事には順序がある。先ずは基礎から、それはそうか。
クラウスもよくやった!といった感じの顔で声を掛けてくる。
「こうして一度身体に覚えさせりゃ、後はそこまで難しくない。慣れればそのうち飯食って読書しながらでも魔法を使える様になる」
「流石にそれは私から見ても行儀良くないですね」
「例えだよ例え」
続いて、ここからが本番。
『創造』の魔法を実際に使ってみる。
魔法陣の上に座り、先刻と同様に右手へと意識を集中させ、血流を流し込む様なイメージ……何度か繰り返すと、手の平に熱を感じた。
「魔力が右手に集まったみたいだね。今なら使えるかも」
「古い文献によると、『創造』は魔法の中でも特に細部までの明確なイメージが重要らしいわ」
今ならこの右手で何かを作り、生み出せる。
『創造』はイメージした生物以外のモノであればだいたい何でも作れる魔法らしい。
ならばオタク的に真っ先に思い浮かぶ、ファンタジー世界で作ってみたいモノ。そう、
「あらゆるものを斬る最強の剣だ!」
右手が熱くなり光る、何とも神々しい光だ。
そして更に強く発光した瞬間、手の平の上に一本の細長い物質が生成される。
そして、そこに顕現した自称最強の剣を見て、周りも、私も、あまりの衝撃に思考が停止し暫しの沈黙が訪れた。
『創造魔法』により創り上げられたその姿はまさしくあらゆるものを切り裂く剣――ではなかった。
何かすっげぇフニャフニャした紙細工の剣?っぽいモノが出来上がっていた。
「何コレぇ!?」
手の平の上でプラプラしているソレを見てあまりのショックに開いた口が塞がらなかった。周りも反応に困っている。
いや、まだ分からない。見た目がふざけてるだけで威力はチート級かもしれない。
「魔神烈火斬!!」
何かそれっぽい技名を叫びながら地面に自称最強の剣を叩きつけた。
ペティンというショボい効果音の後フニャンと折れ曲がって終わった。もちろん地面には傷一つない。破壊をもたらさない環境に優しい剣だ。
「何でだぁぁぁーー!」
「お、落ち着いてハジメ。誰も皆最初は失敗するものだよ」
「うぅ……アンナさん……」
「……ハジメ、レイチェルの話はちゃんと聞いていたか?」
「聞いてましたよクラウスさん。だから、アニメ漫画やゲームの剣を参考にイメージして……」
「……だから紙細工なんじゃないか?」
「……」
えぇ……そんな、だから紙細工って……マジかぁ……思ったよりチート能力じゃなかった……
「ハジメ。何事も焦らずコツコツ積み上げるのが一番なのよ」
「……はい、地道に頑張ります、レイチェルさん……」
いきなり幻想をぶち壊された事で熱に浮かれていた頭が少し冷静になった。
うん、彼女の言う通り地道に行こう。本当はチート無双とかしたかったけど。
さて、気を取り直して『創造魔法』を続けよう。何を創ろうか、考えてみる。先程みたいな失敗はもうなるべく避けたい。
最初は何を創ろうかとワクワクしていたものだがいざその場になるとめちゃくちゃ迷う。というか分からなくなる。何なら作れるんだ。
私は本番に弱いタイプなのだ。
そんないきなり壁にぶち当たるグルグル思考を察したのか、クラウスとアンナも助言をしてくれる。
「細部までのイメージが重要……なら、自分の好きな物とか、強い思い入れのある物を思い浮かべてみたらどうだ」
「思い出の品でもいいし、日常的によく使ってた物でもいいんじゃないかな」
好きな物、思い入れのある物……それとも日常的に使っていた物。どれにも当てはまるのはゲームや漫画だ。これらなら一発で生み出せてしまいそうな気がする。あとは――
「よく使ってた物」
一番強いイメージで頭に浮かんだモノがあった。
次の瞬間。
手に更なる熱を感じ、手の平の中にぼんやりと光が生じて――イメージしたモノが、そっくりそのままの姿でそこに現れた。
よく知っている姿、よく知っている手触り、どこで、いつ、誰に貰ったものかもしっかり覚えている。
「……本当に、出来た」
現れたのは赤と青の柄が付いた白いマグカップだ。
頭の中で強くイメージされた、元の世界で毎日使っていたモノ。
外見も材質もほぼそのままだった。
『創造』によって生成されたモノを見て、クラウスとアンナの二人も感心しながらマジマジとそれを見る。
「これはマグカップか……凄いな、本当にモノを生み出せる魔法なのか」
「隅々まで精巧に出来てるし、ちゃんと陶磁器の材質みたいだね。これはハジメの思い入れがあるモノ?」
「……はい。お母さんから貰った……」
小学一年生の頃、母から誕生日プレゼントに買って貰ったもの。
それから何年も、毎日、使い続けていた。
日常的に使っていて、思い入れがあって、好きな――
「……」
途中で思考を止め、蓋を閉じた。
これ以上考えたら今の生活を楽しめなくなる。
まだ、考えなくていい。
そういえば、魔法を見て一番はしゃぎそうなレイチェルが静かだな、と思い視線を向けると。
「すごいすごいすごいすごい何アレ本当に無から物質が生み出されてるの? どういう理屈? 生成するための材料はどこから来てるの? 魔法の大半は魔力で既に存在している物質を増幅させたり自然現象を操作したり人体に影響を与えるものだけれど『創造』はまたちょっと違う仕組みな気がする。まさかこの世界に存在しない原料から作られたモノを生み出すことも……」
「凄い勢いでブツブツ言いながらノートにメモってる!!」
「レイチェルは魔法への興奮が最大まで高じるとああなるの」
「オタク気質……」
そんな魔法オタク全開な様子の彼女をアンナは微笑ましそうに眺めていた。
クラウスは私の手の平の中のマグカップを見下ろし。
「……母親から貰った、大事なモノか」
「はい」
「そうか……」
彼はマグカップから目を離し空を見上げ、何か想いを馳せる様な表情を見せていた。
――この時、私も、同じ様な顔をしていただろうか。
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