第5話 楽しい魔法実験
母から誕生日プレゼントに貰ったマグカップを創造魔法で生み出し、しんみりとした空気も落ち着いて来たところで。
心配そうにしていたクラウスに「大丈夫」と返し、先程のマグカップを離れた場所にそっと置いた。
気持ちを切り替え、続けて別のモノを生成してみる。どんどん『創造』していこう。
思い浮かんだのはゲーム機……具体的にはNintendoSwitch lite。サイズ的に生成しやすそうだから。
そしてあとは私が大好きな人気少年漫画だ。
先ずは最初にゲーム機をイメージ。熱中し、時に泣き、時に上手くいかなくて癇癪を起こしたゲームをイメージする。プレイ中のソフトがささったままの、NintendoSwitch liteを。
「いっけぇー!」
と、特に意味は無いが勢いで発した声と共に手の平に淡い光が発生。そこに、四角い、見覚えのありすぎる物質が一つ現れた。
「出た、Switch lite!」
画面は液晶、ボタンの数々も忠実に配置されていて、色も私が持っていたグリーン。
記憶の通りの形で出て来た。すごい。
試しに電源ボタンを押してみる……反応なし。中のソフトを確認……そもそも蓋が開かない。
うん、OK。完璧じゃないだろうとは何となく察してた。
「おぉー、すごいじゃないまた何か出来たわね! さっきのマグカップと違って何なのかさっぱり分からないけど!」
「ゲーム機……遊ぶ機械です。まあ玩具ですね」
「へえ、玩具なの……見ただけじゃ全然遊び方分からないけど」
嫁二人に続き、クラウスはかなり興味津々で生成した機械について問いかけてくる。
「ほう、それはゲーム機なのか……言われてみれば確かに、64のコントローラーとゲームボーイを合体させて進化したみたいな外見をしているな」
「64……ゲームボーイ……名前しか知らない……」
私がSwitchに没頭していると、父がたまに古いゲームの話をしていた。その中に出て来た単語としてしか知らない。
どうやら彼もゲームには興味があるらしい。
「これはニンテンドースイッチって奴です」
「任天堂! まだゲーム業界で活躍してるのか!」
凄いテンションが上がってる。任天堂ゲームが好きなのだろうか。
しかし、嫁二人の「何を話してるのか分からん」という目を見てクラウスは一度咳払いしたのち、冷静さを取り戻す。
「コホン。それよりだ、連続で魔法を使って疲れてないか?」
「いえ、まだまだ元気です」
言われたらちょっと疲れて気がするが、始めての魔法体験で心は元気一杯だ。この調子でもう一発行こう。
「ふう……もう一発、『創造』してみます」
「無理はダメだよ?」
「はい」
アンナからも心配されるがまだまだ身体は平気そうだ。
先程と同じ要領。何となく、ちょっとずつだがコツは掴み始めてきた。右手に意識を集中させて、次に生成するものをイメージした。
私が熱中していた大好きなもの。
「いっけぇー!」
またも特に意味の無い声を上げて、淡く発光。『創造』の魔法によりまた新たな物質がこの異世界に顕現する。
形は四角いが先程生み出したものより少し小さいが厚みがある。材質は紙、紙の束。見覚えしかない絵が視界に入る。そう、漫画の単行本だ。
「やった!」
「ほう、漫画本か」
喜びの声とクラウスの声が重なった。
タイトル、表紙絵、作者名、手触り、全てイメージしたものと一致している。
裏表紙も確認……あ、何か裏側は絵も文字もグチャグチャだ。おそらく私の記憶が曖昧だ。
次は中身の確認だ。しっかり紙は一枚一枚生成されている。記憶している範囲まではしっかり中身も再現されている。
「おお、すごい、ちゃんと読める」
中身まで再現できた事に感動していた……が、途中から記憶が曖昧な部分がグチャグチャになっていたり別のエピソードや関係ないキャラが挟まれていたり、何なら別作品のキャラまで紛れ込んでいた。
何でオールマ◯トと両面◯儺が戦ってるんだ。
「やっぱり完璧とまではいかないか」
しかし、こんなものまで作れるのは楽しい。
三人も気になっている様子なので見せてあげる事にした。
「これは絵本みたいなもの……? でも一ページで絵が細かく区切られてて絵本とは別物だね。どう読むの?」
「へえ、本を生成したらしっかり一枚一枚ごとに作られるの……すごいわね。もしかしたら貴重な書物を量産したりなんて事も出来るんじゃ……」
「ふむ。今はこういう漫画が流行っているのか……」
創造魔法で何かを生み出すのが楽しくなって来た。
よし、次もまた私の大好きなもの……
「うどん!!」
そう、次は好きな食べものだ。私はうどんが大好きだ、温かいうどんを思い出しただけでお腹がすく。汁の染み込んだアツアツのお揚げも食べたい。
もし食べものまで作れたら食料に困らない……日常生活でならかなりのチートだ。
味を思い出し、腹を空かせ、イメージし、大好きな食べものを創造する。
「いっけえぇぇーーっ!」
気合の込められた掛け声――神々しい魔力の輝き。そして、地の上に顕現する――
……箸と丼だけが。
「あれ!?」
何でだ、大好きだし思い入れもあるし、イメージもしっかりやった……なのに、この結果とは……
「箸と丼か、上手く作れてるじゃないか」
「違いますクラウスさん! 私、うどんを作ろうとしたんです!」
「あぁ……なるほど……うどんか」
うどんと聞き「久しぶりに食べたいな」という感じの表情を見せたクラウス。
その横に立つアンナから「うどんって?」と聞かれる。
「私が元いた世界で、一番好きだった食べ物です……」
「なるほど、食べ物……レイチェル、どう思う?」
「う〜ん……一番好きで、思い入れがあっても、一ミリすら作れてる形跡が無いのは……そもそも食べ物自体作れないのかもしれないわね、創造魔法は」
「マジですかぁ……まあ、作れないなら仕方ないかぁ……」
まさかの食べ物は作れないという制約に結構ショックだったが、まあいい、気持ちを切り替えよう。
何だか頭が少し重たくなって来たが、もう二回三回くらいならいけそうな気がする。
次は何を作ろうか……と、ワクワクした気分で次の事を考えていたその最中。
丼を眺めていたクラウスが突如目つきを鋭く変え、地面に置いた後、木々の奥を睨みつけた。
それと同時にアンナも、穏やかだった表情が一気に真剣な目つきへと変わる
一瞬にして、何か空気が変わった気がしたのがド素人の私にも分かった。
一体どうしたのだろうか。
「クラウスさん、どうかしました?」
「何か居る。そこでジッとしていろ」
「え?」
「レイチェル、ハジメの側に居てくれ」
「分かったわ」
なんだか分からないが、緊迫した状況に急変した事は察した。空気を読んで黙り辺りを見渡すが、私の目には何も分からない。
暫し沈黙が流れて――クラウスが、微かに剣を鞘から抜く音が聞こえた。
「来る」
その言葉の直後、木々の向こう側から一つの、直撃すれば人体が一瞬で原型を無くしそうな大きさの岩塊が枝葉を砕きながら飛んできた。
「はあぁぁッ!」
一目でヤバいと分かるその光景。私なら走馬灯が過る間もなくぺしゃんこになっていたであろう一撃をクラウスは剣の一振りで両断。
更に岩塊は小さな大量の砂粒へと還り消滅していった。
「は!?」
一人驚く私を置いてけぼりにするように続け様に今度はクラウスの足元から現れた岩の拳を回避、ソレもまたクラウスの一閃により両断され同様の消滅の仕方で消えていった。
「見つけた」
そう呟いたアンナは左手から水を生成し、生み出した水球を水流へ変化させながら木々の向こう側へと一撃を放つ。
木のへし折れる音が聞こえ、それと同時に何者かが飛び出してきてその姿を現す。
白い髪、左目下の入れ墨が特徴的な、獣の毛皮で作られた様なマントを羽織った厳つい顔つきの外見は若い男。無傷だ、先程のアンナの魔法は避けたのか、防いだのか。
白髪の男とクラウスの視線が交差し――互いの名を呼び合う。
「久しぶりだな、クラウス。十年ぶりくらいか」
「ゲオルグ! やはりお前の攻撃か、どういうつもりだ!」
ゲオルグと呼ばれた男は一瞬で岩で作られた様な剣を手の平に生み出し、一閃。
それをクラウスは剣で応戦し一撃で粉砕、岩の剣の半分を消滅させた。
「相変わらず厄介だな」
そう呟きながら数メートル後退するゲオルグ。
更にクラウスのすぐ後ろで立つアンナが右手に炎の塊を生成し、距離を取った男へ放とうとしたその直後。
「そっちにも来るぞ! 上からだ!」
「――!」
クラウスからの警告の一声。
それを聞いたアンナは直ぐに上へと視線を向けた――すると、上空から落ちてくる一つの人影。
水色の長い髪に額から生えた二本の角、着物を身に纏い刀を構えた女がそこに居た。
「く――っ!」
頭上から一直線に放たれた銀閃をアンナはギリギリで回避。
「元気そうで何よりです、アンナ」
「台詞と行動が噛み合ってないけれど!」
アンナの反撃として放たれた炎の玉。
それを避けながら着物の女は後退し、白髪の男の隣へと移動する。
「……ゲオルグに、シズクまで居るのか。今更何をしにきた」
全員、知り合いなのだろうか。状況が全く分からない。
そんな混乱で置いてけぼりになる私の前で、クラウス、アンナと睨み合うゲオルグは、厳つくも冷静な顔を保ったまま、静かに口を開く。
「クラウス。貴様の今の実力を……確かめに来た」
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