第十九章 最後の宴
和平交渉は、決裂した。
黒田は、帝国に戻り、軍の動員を開始した。戦争は、もはや避けられない状況になった。
王国でも、戦争の準備が始まった。
兵士たちが召集され、武器が鍛えられ、城壁が補強される。平和だった王都に、緊張感が漂い始めた。
「レン、どうするの」
ミラが、心配そうに蓮を見つめた。
蓮は、厨房で黙々と菓子を作り続けていた。
「俺にできることは、これしかない」
蓮は、手を止めずに答えた。
「戦いは、俺にはできない。剣も振れない、魔法も使えない。でも、菓子は作れる」
「でも、戦争が始まったら……」
「始まる前に、止める。何としても」
蓮は、完成した菓子を見つめた。
「もう一度、黒田に会いに行く。そして、この菓子を食べさせる」
「危険よ! 今、帝国に行ったら——」
「分かってる。でも、他に方法がない」
蓮は、ミラの目をまっすぐに見つめた。
「俺は、諦めない。最後まで、足掻く。それが、俺のやり方だ」
ミラは、しばらく黙っていた。
そして、小さく頷いた。
「……分かった。でも、一人で行かせない。私も、一緒に行く」
「ミラ——」
「レンの隣で、ずっと見てきたの。レンが頑張る姿を。だから、最後まで一緒にいる」
蓮は、ミラの言葉に胸が熱くなった。
「……ありがとう、ミラ」
蓮は、国王に提案した。
「陛下、最後の機会をください。俺が、帝国に行きます」
「また、捕まりに行くつもりか」
「いいえ。今度は、違います。俺は、黒田の心を動かす方法を見つけました」
「方法?」
「菓子です。俺の菓子で、黒田の心を開きます。そして、戦争を止めます」
国王は、蓮を見つめた。
「……菓子で、戦争を止めると?」
「はい。俺には、それしかできません。でも、俺にしかできないことでもあります」
国王は、しばらく考え込んでいた。
やがて、深いため息をついた。
「……よかろう。最後の機会を与える。ただし、今回は俺も同行する」
「陛下が……?」
「そうじゃ。帝国の皇帝と、直接話がしたい。宰相ではなく、皇帝と」
「でも、皇帝は幽閉されて——」
「分かっておる。しかし、皇帝を解放する方法があるかもしれぬ。お主の菓子と、わしの交渉術。両方を使えば、何か変わるかもしれぬ」
国王は、立ち上がった。
「全軍に伝えよ。和平の最後の使節団を、帝国に送ると」
使節団は、王国を出発した。
国王、セラフィーナ、蓮、ミラ、そして護衛の騎士団。
大規模な使節団は、帝国との国境に向かって進んだ。
道中、蓮は新しい菓子を作り続けた。
「最後の菓子」——。
王国と帝国、両方の食材を使った菓子。両国の兵士たちに配るための、大量の菓子。
「レン、いくつ作るつもり?」
ミラが、驚いて尋ねた。
「千個以上」
「千個……!?」
「両軍の兵士、全員に食べてもらうんだ。そうすれば、きっと何かが変わる」
蓮は、休むことなく作業を続けた。
夜を徹して、菓子を作り続けた。
そして、国境に到着する頃には、千個以上の菓子が完成していた。
国境では、帝国軍が待ち構えていた。
数万の兵士が、整然と隊列を組んでいる。その先頭に、黒田が立っていた。
「来たか、神崎」
黒田は、蓮を見て嘲笑った。
「わざわざ、殺されに来るとはな」
「違う。俺は、和平の使者として来た」
「和平? 今さら、そんなものが通用すると思うか」
「通用させる。俺の菓子で」
蓮は、大きな籠を掲げた。
中には、彼が作った千個以上の菓子が詰まっている。
「この菓子を、両軍の兵士に配る。食べれば、分かる。俺たちは、戦う必要なんかない」
黒田は、鼻で笑った。
「菓子で、戦争が止まると本気で思っているのか?」
「思っている」
蓮は、真剣な表情で答えた。
「菓子は、人を笑顔にする力がある。その力を、俺は信じている」
黒田は、しばらく蓮を見つめていた。
そして、冷たく言い放った。
「……馬鹿らしい。全軍、攻撃開始!」
帝国軍が、動き始めた。
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