第十四章 敵地への旅
王都を出発してから、一週間が経った。
蓮たちは、北へ向かって旅を続けていた。
最初の数日は、王国の領土内だった。豊かな農村が広がり、人々は平和に暮らしていた。
しかし、国境を越えると、景色が一変した。
「……ひどい」
蓮は、馬車の窓から外を見つめながら呟いた。
荒れ果てた農地。崩れかけた家屋。痩せこけた人々。
帝国の領土は、王国とは全く異なっていた。貧困と飢餓が、あらゆる場所に蔓延している。
「帝国は、資源が乏しいの」
セラフィーナが、説明した。
「北の大地は、土地が痩せていて、作物があまり育たない。だから、食料が常に不足している」
「だから、戦争を……」
「そう。王国の豊かな土地を奪うために、南進政策を取っている。でも、戦争をすれば、さらに国力が疲弊する。悪循環よ」
蓮は、帝国の民の姿を見つめた。
子どもたちが、道端で物乞いをしている。老人が、力なく座り込んでいる。母親が、赤ん坊を抱えて泣いている。
「……俺、分かった気がする」
蓮は、静かに言った。
「帝国の人々も、苦しんでいるんだ。戦争を望んでいるのは、上の人間だけで。庶民は、ただ平和に暮らしたいだけなんだ」
「そうね。どこの国でも、戦争で苦しむのは庶民よ」
蓮は、拳を握りしめた。
「俺の菓子を、この人たちにも届けたい」
「……え?」
「王国の人だけじゃない。帝国の人にも、甘味を届けたい。貧しくて、苦しんでいる人たちに、少しでも幸せを感じてもらいたい」
セラフィーナは、蓮を見つめた。
「でも、彼らは『敵国』の民よ」
「敵だろうが、味方だろうが、菓子を食べれば笑顔になる。それは変わらない」
蓮は、真剣な表情で言った。
「俺の目標は、全ての人に甘味を届けることだ。国境なんて、関係ない」
セラフィーナは、しばらく黙っていた。
そして、小さく微笑んだ。
「……あなたらしいわね」
馬車は、帝国の首都へ向かって進み続けた。
帝国の首都・ヴァルガンに到着したのは、出発から二週間後だった。
首都は、王国の王都とは全く異なる雰囲気だった。
灰色の石造りの建物が、無機質に立ち並ぶ。道には軍人が多く、常に緊張感が漂っている。人々の顔は暗く、笑い声はほとんど聞こえない。
「……陰鬱な街だな」
蓮は、呟いた。
「軍事国家だからね。全てが、戦争のために存在している」
一行は、帝国の外務省に案内された。
そこで、正式な手続きを行い、宰相との会見を申し入れた。
「宰相殿は、多忙を極めておられます。会見は、明日以降になります」
外務省の役人が、冷たい口調で言った。
蓮たちは、用意された宿舎に案内された。
監視付きの軟禁状態だ。自由に動くことはできない。
「仕方ないわね。待つしかないか」
セラフィーナが、ため息をついた。
蓮は、窓から外を見つめた。
帝国の首都。黒田が支配する街。
明日、彼と再会する。
蓮の心は、奇妙な緊張に包まれていた。
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