第十三章 宣戦布告
帝国への出発準備が進む中、突然の知らせが飛び込んできた。
「帝国が、宣戦布告した!」
王宮中が、騒然となった。
「和平交渉を申し入れておきながら、宣戦布告だと?」
「騙されたのだ!」
「あの『黒い宰相』の策略か!」
蓮は、セラフィーナと共に情報を収集した。
帝国の宣戦布告は、突然だった。和平交渉の申し入れから、わずか三日後。帝国軍は、すでに国境に集結しており、いつでも侵攻を開始できる状態にある。
「なぜだ……。和平を望んでいたんじゃないのか」
蓮は、困惑しながら呟いた。
「最初から、騙すつもりだったのよ」
セラフィーナが、苦い表情で言った。
「和平交渉を申し入れて、こちらの警戒を緩めさせる。その隙に、軍を集結させる。古典的な策略だけど、効果的ね」
「黒田の……いや、あの宰相の策略か」
蓮は、拳を握りしめた。
黒田は、最初から戦争を仕掛けるつもりだった。和平交渉など、ただの時間稼ぎだった。
「陛下は、どうされるのですか」
「今、御前会議中よ。戦争に備えるか、それとも外交で解決を図るか」
蓮は、立ち上がった。
「俺、会議に行きます」
「え? でも——」
「俺には、やるべきことがある」
蓮は、玉座の間へ向かった。
御前会議は、紛糾していた。
「戦争は避けられん! 軍を動員せよ!」
「いや、まだ外交の余地はある!」
「帝国の軍勢は十万以上だ! 勝てる見込みがない!」
貴族たちが、怒鳴り合っている。
国王は、玉座に座り、沈黙していた。
蓮は、会場に入り、片膝をついた。
「陛下、発言をお許しください」
国王は、蓮を見つめた。
「……許す。何だ」
「俺は、予定通り帝国に行きます」
会場が、静まり返った。
「宣戦布告された今、敵地に乗り込むのか?」
「はい。むしろ、今だからこそ行く意味があります」
蓮は、立ち上がった。
「帝国の宰相は、俺の知り合いです。彼は、俺を憎んでいる。だからこそ、俺が行けば、彼は必ず会いに来る」
「会いに来て、どうなる。殺されるだけではないか」
「殺されるかもしれません。でも、その前に、話ができる。なぜ戦争を望むのか。何を求めているのか。それを知ることができれば、解決の糸口が見つかるかもしれない」
国王は、黙って蓮を見つめた。
「俺には、菓子という武器があります。剣では敵を倒せない。魔法も使えない。でも、菓子は人の心を開く。その力を、試させてください」
沈黙が流れた。
やがて、国王は静かに言った。
「……よかろう。許可する」
「陛下!」
貴族たちが、再び声を上げた。
しかし、国王は手を挙げて制した。
「この者の覚悟を、無駄にはしたくない。ただし、一人では行かせん。護衛をつける」
「承知しました、陛下」
蓮は、深く頭を下げた。
出発の日が来た。
蓮の護衛として、セラフィーナと、数人の騎士が同行することになった。
「本当に行くの?」
ミラが、泣きそうな顔で蓮を見つめていた。
蓮が王都に来てから、ミラも王都に呼び寄せていた。彼女は今、甘味工房で働いている。
「ごめん、ミラ。でも、行かなきゃいけないんだ」
「……分かってる。でも、心配なの」
蓮は、ミラの頭を撫でた。
「大丈夫。俺、必ず戻ってくるから」
「……約束だよ」
「ああ、約束だ」
蓮は、馬車に乗り込んだ。
セラフィーナが、隣に座った。
「準備はいい?」
「はい」
「じゃあ、行きましょう」
馬車が、動き出した。
王都の門をくぐり、北への道を進む。
帝国へ。黒田健吾のもとへ。
蓮の戦いが、始まろうとしていた。
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