第十二章 再会

帝国の使節団が帰国してから、一か月が経った。


その間、蓮は「黒い宰相」——黒田健吾について、できる限りの情報を集めた。


セラフィーナの協力を得て、王国の情報部から資料を入手した。商人たちから、帝国の内情を聞き出した。


集まった情報を整理すると、驚くべき事実が浮かび上がってきた。


黒田は、五年前に帝国の首都で突然現れた。最初は、ただの流れ者として扱われていた。しかし、彼は驚異的な速さで出世を重ねた。


商人として財を成し、貴族の信頼を勝ち取り、やがて皇帝の側近となった。そして、三年前に宰相に就任。以来、帝国の実権を握っている。


「この男、何者だ……」


蓮は、資料を読みながら呟いた。


黒田は、前世ではパティシエだった。要領は良かったが、政治や経済の専門家ではなかったはずだ。


なぜ、異世界で宰相になれたのか。


「転生したとき、何か特別な能力を得たのかもしれない」


セラフィーナが、傍らで言った。


「特別な能力?」


「この世界では、稀に『神託』を受けて異能を得る者がいるの。もしかしたら、彼も何かの能力を……」


蓮は、考え込んだ。


黒田が、特別な能力を持っている。それなら、彼の異常な出世も説明がつく。


「どんな能力だろう……」


「分からない。でも、気をつけて。彼は、あなたを狙っている」


セラフィーナの言葉に、蓮は頷いた。


「分かっています」


数日後、再び帝国から使者が来た。


今度は、「正式な和平交渉」の申し入れだった。


両国の首脳が会談し、長年の対立を解消する——という提案だ。


国王は、慎重な姿勢を見せた。


「帝国の真意が読めん。罠かもしれん」


御前会議で、国王は言った。


「しかし、和平の機会を逃すわけにもいかない。どうすべきか」


貴族たちの間で、議論が紛糾した。


「受け入れるべきだ。戦争は避けたい」


「いや、罠に違いない。断るべきだ」


「様子を見てから決めればいい」


蓮は、会議の末席で黙って聞いていた。


甘味師ギルドのマスターとして、蓮も御前会議に出席する権利を持っていた。しかし、政治の議論に口を挟む立場ではない。


会議が膠着状態に陥ったとき、蓮は手を挙げた。


「陛下、一つ提案があります」


会場が、静まり返った。


国王は、蓮を見つめた。


「発言を許す。何だ?」


蓮は、立ち上がった。


「俺が、帝国に行きます」


会場に、どよめきが広がった。


「正式な交渉の前に、事前協議として、俺が帝国を訪問します。帝国の真意を探り、本当に和平を望んでいるのかどうか、確認してきます」


「お前が? なぜ、お前なのだ」


「帝国の宰相は、俺の知り合いです。前世で——いえ、昔、同じ場所で働いていた仲間です。俺なら、彼と直接話ができます」


国王は、眉をひそめた。


「危険ではないのか?」


「危険は、承知しています。でも、俺には菓子という武器があります。菓子は、人の心を開く力を持っています。それを使って、交渉の糸口を見つけてきます」


蓮は、国王をまっすぐに見つめた。


「俺の菓子で、戦争を止めてみせます」


会場が、再びざわめいた。


しかし、国王は黙って蓮を見つめていた。


やがて、国王は静かに言った。


「……よかろう。許可する」


「陛下!」


貴族たちが、驚いて声を上げた。


「危険です! あの若者を帝国に送るのは——」


「黙れ」


国王は、貴族たちを制した。


「この者には、菓子という武器がある。それは、剣や魔法とは違う力だ。試してみる価値はある」


国王は、蓮に向き直った。


「レン・カルディア。お前に、王国の使節としての権限を与える。帝国に行き、交渉の道を探れ」


「承知しました、陛下」


蓮は、深く頭を下げた。

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