第1話 「死者転生」
最初に感じたのは、暖かさだった。
意識はハッキリするのだが暗黒しか見えない。
こほっと喉のつまりを吐き出す。
手足の感覚は、朧気でまるで自分の体では無い様だった。
生き残った?あの高さから?ここは、病院なのだろうか。
最後の記憶では、頭から落ちたはずと、死の感覚を思い出し混乱する。
「_____。」
傍らから聞き覚えのない声が聞こえたが
情けなく助かった喜びと何も感覚がないという絶望で、
「あああ゛っああぁあ゛あ゛ー」
と、泣き出してしまう。
もうすぐ十七歳になるのに何とも情けない声だった。
どれだけ時間が過ぎただろうか、確認のできぬまま俺は
睡眠と覚醒を繰り返した。
目が見えないと思っていたが、最近周りが明るい暗いぐらいは分かるようになる。
ただ瞼が重く何かに注視することが出来ない。
時々顎の辺りに当たる何かが、自分の腕であることに最近気付いた。
たまに体を持ち上げられたり下の世話をしてもらったり、
要介護者と言った感じで過ごしている。
これだけの事だ、入院費を払う両親の苦労を考える。
今の状態を見て、喜ぶのだろうか悲しむのだろうか?
そんな事を考えていると、体を急に持ち上げられた。
口の中に少しとろみのある薄い血の味の液体を入れられる。
毎回毎回これだが点滴とか、ないのだろうか?
羞恥心が沸くこの格好を、来るはずのないクラスメイトに見られたら
一年は笑いものにされる。そんなネガティブな事を考えてまた死にたくなる。
今日もまた、暗い気持ちのまま一日を終えるのだった。
おそらくだが数か月が経った。
朧気だった視界がハッキリし、一メートルぐらいなら何があるのか分かる。
そして自分自身の置かれた状況を理解する。
どうやら俺は、生まれ変わったらしい。
精神的な意味でなく肉体的な意味で。明らかに小さくなった手を見ながら考える。
最初は半信半疑だったが、身長百七十の俺には不釣り合いな木のベット
どう見ても病院ではない 知らない天井、俺をあやす金髪の女性。(おそらく母親)
が現実を突き付ける。別の国に赤子として生まれ変わったのだ。
まさか神様が、俺を不憫に思ってもう一度人生をやり直させてくれたのだろうか?
神社になんて正月の初詣ぐらいしか行かず、お賽銭もご縁が十分に
ありますようにと、五十円しか投げ入れてこなかった自分をか?
はたまた今まで生きてきた世界が虚構で、今からが現実なのか?
頭の中で様々な作品を思い浮かべる。
マト〇ックス、ワンダ〇ルライフ、なろう系小説 etc.etc.……
まずは情報収集だ。
そう思った俺は泣き声をあげる。
赤ん坊は泣くことによって肺を鍛えると聞いたことがあったので
最近は適度に涙を流すようにしている。
ただ家族がノイローゼになっては、困るので夜泣きはやめておこう。
おおよそ赤子が考えない思いやりの心が溢れる泣き顔だ、そんな俺をつぶらな蒼い瞳が見つめる。
金色の柔らかい髪を持ったこの少女は、どうやら俺の姉らしい。
木で出来た人形を振りながら、泣き止ませようと笑いながら話しかけてくる。
「__ッ____。」
生前は一人っ子だったので、こんな可愛い家族が出来たのは嬉しいが、
今は、彼女の発する言葉に注視する。
今までの人生で、聞き覚えのない言語だった。
家の内装がウッド調であることと、彼女たちのいで立ちから、
ヨーロッパ 更には北欧系と睨んでいるが英単語やそれに準ずる言葉は聞き取れず
自分が地球のどこにいるのか掴めずにいた。
また家の様子も電化製品は無く、明かりはロウソクの火
水道もなく、水は外の井戸から汲んできている様子だった。
もしかしたら何百年も昔に来てしまったのではないかと絶望してしまう。
虚ろな瞳で少女を見つつ、インターネットもゲームも無いなんて終わってると
罰当たりな事を考えていると母親がやって来た。
どうやらお乳の時間らしい。
最近気付いた事だが、時間帯によって味が変わる
食生活の影響だろうか?赤子になってからなんともいらない知識を得てしまった。
食事をしていると姉が屈託のない笑顔で母親の授乳を見ている。
乳を吸う精神年齢十七歳を十歳もいかない少女に見られる
凄まじい羞恥プレイを味わった。
止めてくれアネキ その瞳はオレに効く 止めてくれ。
生まれ変わってから半年が経過した。
首が座ったのと、離乳食が始まったのでおそらくそれくらいが経ったのだと思う。
最近はベットから行動範囲が広がった。
まずは食卓からだ。
ものを食べる様になったので、俺も一家団欒に加わることになる
メンツは、母親、姉、そしておじいちゃんだ。
この白髪の老人、気配は感じていたのだが今まで視界の中に入ってはこず、
孫をあやす事も無かったため、ここ数日まで顔を知らなかった。
母親とのやり取りから、父親ではなく祖父に当たるのだろう
眉間にしわの寄った、偏屈そうな爺さんだった。
食事の内容だが、俺の離乳食は 麦がゆだった。
赤ん坊の食べ物だからこんなもんだろうと、口元まで出されたそれを咀嚼する。
味は無くドロドロとしていた。
なんとも手づくリ感のある、木製のスプーンと食器が温かみを与えている。
ほか三人の食事にも目を向けた。
蒸かした芋と野菜 根菜のスープがロウソクの火によって照らされている
よく言えば質素、悪く言えば貧乏と言った感じだった。
生前は実家が料理屋だったため俺自身の食に対してのハードルは、高い。
だって日本人ならお米とか食べたいじゃん。
そんなことを考えながら食事をしていると
「レグは残さず食べれて偉いねー」
と、母親に話しかけられる。
最近は日常会話ぐらいなら理解出来る様になってきた。
固有名詞は、分からないが相手の行動から推察するだけの頭はある。
生前 英語の試験の点数は、良くなかったが郷に入っては郷に従え
この言語しかないとなると覚えるのは早かった。
赤ん坊だから頭が柔らかいのか?
「ぺリニアナも、もうお姉さんなんだから野菜も残さず食べなきゃダメよ」
「えー、姉ちゃんの分レグ食べていいよ」
と言ってスプーンに人参の様なものを乗せて差し出してくる。
まだ歯が生えていないので食べられる訳がない
んー。と言って嫌がっておく。
「ねえ お父さんこの子やっぱり私の会話聞こえてるんじゃないかしら?
上の子の時と違って夜泣きも全くしないし」
「最初は泣かず、ダメかと思ったが 話しかける人の顔も見るし大丈夫だろう」
幼い姉がいる分、会話が簡単に聞きやすくされているので
こちらとしても理解しやすい。
もしこれが「ファルシのルシがコクーンでパージ」とかであったのなら
俺は学ぶことを諦めていた。
そんな事を考えて フフッと笑ってしまう。
つられた様に母と姉が笑う。燭台の揺らぐ明かりの中で温かい家庭があった。
次にこの家の内装だ。
半年も時間が経過したことにより、視界も良好になりマスターしたてのハイハイで家中を見て回った。
母親からは、この歳で動き回っている事に驚かれたが
男の子はこれぐらい元気かと、なぜか納得された。
自分の目でも確かめたのだが、この世界でも俺は男だった。
魂を救っていただいたおまけに玉を二つ頂いたのだ。
折角生まれ変わるのであれば、女の子に成ってみたかった。
姉や母親を見る限り、将来はかなり美人に育ち男からモテモテになるだろう
今回は、告白するよりもされる方になりたいものである。
話は、脱線したが家の内情を整理する
建物全体は平屋の木造建築で、リビング 寝室 炊事場 倉庫と
あまり広くなく、トイレはボットンで屋外にあった。
家中から外を見ると周りは深い森で、空はほとんど見えない。
というか窓にはガラスが嵌められているのでそこそこの文明はありそうだ。
なるべく外の様子を知りたいのだが、玄関の出入りは激しくなく
待ち伏せしていると「お外は、危ないから」とベットに強制帰還させられてしまう。
家族は、必要以上に外へ出たがらない感じだ。
唯一 おじいちゃんだけが長時間の外出をしている。仕事だろうか?
そんな感じで数日を過ごし 家の中で見るものが無くなった頃、
外に出るチャンスが巡ってきた。
母親が布団を洗濯するようで、玄関の前に置かれた桶の中には大きな布が
山のように積まれていた。
俺は、看守たちの目を盗みその中に潜り込む 数分もしないうちに
桶事持ち上げられたのが伝わる、どうやら重さの違いでばれてはいない。
木を隠すなら森の中、赤子を隠すならお布団の中である。
そうこう考えているうちに移動が終わる。
さてここからどう脱出するかと思った瞬間、頭の上から水の流れる音がする。
冷た!と反射的に声が出てしまった。
「レグ!なんでこんなところにいるの!?」
「ううー」
声に反応した母親が、水を吸った布団の中から俺を抱き上げる。
驚いているとも、怒っているとも言えない表情で 濡れた頭と顔を
付けていたエプロンの裾で拭き上げる。
大分焦っているようだが、出来ればタオルなどの清潔な布でやって欲しい
そんな贅沢を考えながら、なされるがままの状態でふと気がつく。
先ほどから水の流れる音がまったく無くならない。
俺の知る限り井戸というものは、下に溜まった水を桶で汲むか
手押しポンプでガシャガシャやるかで フリーハンドで出来るものではない。
ましてや、料理の際に薪で火を起こしている家だ、水道があるとも思えない。
それに近くに水流を引っ張ってこれる川もない、あれば音で気づくだろう。
だが俺の後ろから聞こえる水の落ちる音は、全く衰えを知らない。ではなぜ?
「風邪をひくから着替えさせないと」と聞こえる、腕の中で体勢を変えついにそれを視認する。
今までの予想を裏切るそれは、ただの箱だった。
いや、見た目は石でできた何の変哲のない四角だがゲーミングPCよろしく
または、幸せな家庭がやるクリスマスの外壁イルミネーションのように光り
それが収束する一点から水が流れ出ていた。
「まったく小さいのに悪戯っ子なんだから、あまり言うことを聞かないと
おじいちゃんに叱ってもらいますからね」
そんな言葉も右から左、全く頭に入ってはこず、
今までの人生で見たことのない物体に釘付けだった。
母親が箱をなでると今までの勢いが、ウソだったかのように水が止まり
光ることのないただの四角い石に戻る。
そして足早に家の中へ、入ろうとする彼女の透けた黄金色の髪を見ながら思考する
生まれ変わってから初めて得た、この世界の情報は、一つの答えを俺にもたらした。
辿り着いたここは、地球のどこかでも
ましてや過去にタイムスリップしたのでもなく
自分のいた世界とは異なる まさに【異世界】だったのだ。
死んだはずの俺は、この世界に転生してしまったのだった。
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