異人伝 レグナンスの冒険

@BlackBoxRex

プロローグ

ある晴れた日、俺は学校の屋上にいた。

ここから見える校庭には、楽しそうに体育の授業を受ける生徒が見える。

種目はサッカーのようだが、お調子者の高い声や冗談交じりの罵倒が聞こえ

陽キャ 陰キャ 差はあれど青春の一ページと言ったぐわいだった。

俺のクラスでもつまらない世界史の授業をやっている事だろう。

そして、誰も俺がいないことには気にも留めない。

そう、誰も気にも留めないのが俺の立ち位置だった。


話は一か月前に遡る。

同じ部活の女子に一世一代の告白をした。

一年と半年、大会のたびにお互いの応援をしていた中で

クリスマスには、彼女と過ごしたいと思い慣れない告白を考え

手紙で呼び出し、自分としては百点の思いのものだった。

結果的に振られたので、そう思わないとやるせなく為るのだが。

だがその後が問題だった。

実は彼女は、一つ年上のバスケ部キャプテンと付き合っていたのだ。

あの告白の場面も、動画に撮られており一週間も経たないうちに学年中に広がっていた。

最初は、いじられる程度で軽く受け流し、自虐する感じだったが

イケメンキャプテンは気に入らなかったらしく

笑い声は、罵倒へ、罵倒は、暴力へと目まぐるしく変わった。

可愛い彼女もよくあんな男を好きになったものだ。

世の中結局、顔。そしてヒエラルキーを落ちた者は、一生落ち続けるのだ。


そして今にいたる。

普段入ることの出来ないこの屋上は、俺だけのものだった。

人を奴隷のように扱ってきた奴も、腫物を扱うように離れて行った奴も誰もいない。

開ける際にドアノブごと鍵を壊したが

相手の推薦や生徒の自主性を謳う自称進学校様にはいい気味だ。

と、強がってわみたが心では、負けを認めている。

ふーと、息を吐きながら背中のフェンスに体重を預ける。

安全のために設置されたこれは、乗り越えたものには命綱でもあった。

眼下にはコンクリートが広がり、五階に相当するこの高さからなら即死するというのが見て取れる。

一歩ふみだせば死の世界、それが俺の立ち位置だ。


決意を決めるために今までの人生をふりかえる。

両親は仕事ばかりであまり相手にされず

家ではスマホやゲームばかりだった。

父親は厳格で顔を会わせるたびに、勉強がどーとか、将来がどーとか。

今回の件でも、勇気を持てだとか、負けるなだとか

欲しかった言葉は一つも無かった。

友達も高校に入って疎遠になり、事情を知っても安い慰めの声をかけるだけだった。

母親は泣くかもしれないが、こんな事にしか覚悟を決められない自分が一番嫌だった。


あと少し あと少し

これでいいのか、これしかない


頭の中は、終わらせたいと、終わらせたくないでぐちゃぐちゃだった。

目の前 コンクリート 空 足元 高さ 校庭 悲鳴

俺を見つけた誰かの声と共に、踏み出した。

何とも情けない 今までの人生の集大成の 終わりの一歩だった。


落ちる一瞬 その時の一瞬 誰かが首元でせせら笑った。

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