第22話 時が止まった瞬間
セントヒル・タワーに並ぶ、最高級ホテル。
「やあ、ニック。」
媚を売るように話し掛ける男。
「ニック。」
誘うように声を掛けてくる女。
「マッケンジャーさん!」
知り合いである事を誇示するような男。
(虫唾が走るぜ)
マッケンジャーは、一気に囲まれた。
気づけば、彼の周囲には新しい顔が増えていた。
皆、同じような笑顔を浮かべて。
ジャスパーは、常に背後にいる。
セキュリティチェックでは、銃は確認され、黙認された。
それがこの男の世界だった。
どうでもいいような世間話から、株価の話題に至るまで、マッケンジャーは卒なくこなす。
ハイスクールにすら通っていないが、賢い男だった。
(もって生まれた地頭ってやつもあるんだろうけど、ものすげえ努力したんだよな、ボスも)
世間話のひとつすら、聞き逃さず、ジャスパーは話しを聞いていた。
マッケンジャーはそれをわかっていた。
「どうだ、勉強になるか?」
「はい。ボスが話す事は全て勉強になります。」
マッケンジャーの口元だけが、わずかに歪んだ。
そして、まるで呼ばれているかのように、次の集団へと歩みを進めた。
マッケンジャーの後ろを歩くジャスパーは、なにか視線を感じた。
——時が止まった。
「ジャスパー…?」
声にならない声だったが、そう言ってるのがわかった。
(リリー!)
咄嗟にジャスパーは、「シッ!」と口に人差し指を当てる。
ニコラスとジェシカに連れられ、リリーも来ていた。最近は学校へも殆ど通えなくなっていた、リリーを連れ出したのだ。
(ジャスパー!ジャスパー!ジャスパー!)
脈が跳ね上がるのがわかる。
ジェシカが様子がおかしい事に気づき、慌てて椅子に座らせ、頓服薬を飲ませた。
視界に、リリーの様子がおかしい事はわかったが、絶対にそちらを見なかった。
自分と関わりがあると周りに知られないために。
ジャスパーは、全て調査していた。
リリーが重度のパニック障害である事も承知していた。
(主要出席者リストに、ニコラス・パーカーの名前はなかった…クソッ)
時が止まった瞬間から、15分ほど経過した頃、頓服薬が効いてきたのだらう。
少し落ち着いたリリーを連れて夫妻はパーティーを後にした。
(よし、それでいい。
リリー…)
振り向きたかった。
追いかけたかった。
今すぐに抱きしめたかった。
「皆様、慈善パーティーに多大なるご寄付をいただいた、ニック・マッケンジャー様に、拍手を!」
喝采と拍手の渦、手を挙げるマッケンジャー。
ジャスパーの心は泣いていた——。
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