第16話 待っていた男

スミスはしばらく黙っていたが、やがて口を開く。


「テイラー君。君は、なぜあの行動を取った?」


「……はい。非常に迷いました。

ですが、最後は迷いませんでした。」


「ほう。なぜだ?」


「セントヒルタワーが最も重んじているのは、

お客様への最高級のおもてなしです。

ですが、我々は“使用人”ではありません。

最高級の空間と時間を提供する、パートナーです。」


「フッ……」


スミスは小さく笑った。


「君の行動は、少なくとも他のお客様にとっては正解だったようだ。

ただし、次からは警備員を呼びなさい。」


「はい。」


「下がっていい。」


「……あの、返金のお金は……」


スミスは呆れたように言った。


「うちは、セントヒルタワーだ。

君が気にすることではない。」



「ジャック、交代が遅れてすみません。」


「気にするな!」


ジャックは力強く、ジャスパーの肩を叩いた。


ジャスパーは燕尾服の襟を正し、定位置につく。


ほどなく、大理石の床を踏む足音が近づいてきた。


(……この足音)


顔を上げ、爽やかな笑みを浮かべる。


「マッケンジャー様。おはようございます。」


「おはよう。テイラー君。」


マッケンジャーは、エレベーターを降りた場所で、二人の交代を待っていた。


ジャスパーがドアを開ける。


外へ出たところで、マッケンジャーがふと尋ねた。


「テイラー君、今日の天気はどうだろうか。」


「はい。本日は午後から夕方にかけて、小雨の予報でございます。」


「そうか。」


マッケンジャーは車へ向かう。


「いってらっしゃいませ。」


マッケンジャーは、ジャスパーの処罰など微塵も心配していなかった。

スミスという男を、よく知っていたからだ。


ただ——

わざわざジャスパーが出てくるのを、待っていた。


それだけだった。

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