第14話 同類

14話


「おはようございます、マッケンジャー様。

いってらっしゃいませ。」


「おはよう、テイラー君。」


マッケンジャーは、ふと足を止め、空を見上げた。


「今日は、いい天気になりそうだ。」


「はい。本日は一日中、晴れの予報でございます。」


ジャスパーは一礼したまま、視線を伏せている。

その姿勢に、一分の隙もない。


マッケンジャーは一瞬だけ、彼を横目で見た。

それから歩き出し、車に乗り込む。


高級車は、音もなく走り去っていった。


——ジャスパーがドアマンの仕事を始めて、三週間が経っていた。


車内で、マッケンジャーは考えていた。


(あれは、ただの従業員の目じゃない)


礼儀正しく、好青年を完璧に演じ切っている。

声の調子、呼吸の間、視線の落とし方——

すべてが計算されている。


穏やかな瞳の奥に、牙がある。

それがわかるのは、自分も同じ側の人間だからだ。


(狙いは……俺か)


マッケンジャーは、薄く笑った。


———


——リビングのソファで、エディは分厚い本を読んでいた。


養父のエドワードが声をかける。


「エディ。君は、いつもその本だね。

……本気で、法の道へ進むつもりかい?」


エディは本を閉じ、真っ直ぐに答えた。


「はい。弁護士になります。」


「そうか。君の成績なら、選択肢はいくらでもある。

もう、志望は決めているのか?」


「東部の、最難関のロースクールです。」


言い切りに、迷いはなかった。


「あそこは狭き門だぞ。」


「無償の奨学枠を狙います。」


エドワードは言葉を失う。

それがどれほど厳しい道か、彼は知っていた。


「……私たちも、できる限りのことはする。

だから——」


「大丈夫です。」


エディは遮る。


「必ず、辿り着きます。」


(守るためには、力が要る。

その力は、正しい場所で手に入れる)


エディは、もう迷っていなかった。


———


——リリーの家の前に、救急車が止まっていた。


担架に乗せられたリリーが運び出される。


「リリー! リリー!」


ジェシカは、取り乱したまま付き添う。


病院で、医師が説明する。


「頻脈性の発作ですね。

心拍数がかなり上がり、血圧も一時的に低下しています。」


ジェシカの顔が、強張る。


「現在は安定しています。

命に関わる状態ではありません。」


医師はカルテに目を落とした。


「……パニック障害で、精神科に通われているんですね。」


「はい。処方薬は、私が管理しています。」


「そうですか。」


一拍置いて、医師は続ける。


「専門外ではありますが、

発作の頻度を見る限り、一度、主治医の先生に

処方内容を見直してもらった方がいいでしょう。」


ジェシカは、深く頷いた。


「今日はこちらで、発作時用の薬を数日分出します。

ただし、長期的な調整は精神科で行ってください。」


「……お願いします。」


数日後、リリーは

“街で一番信頼されている”と評判の精神科医を受診することになる。


彼女自身は、

そのことを、ほとんど覚えていなかった——。

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