第11話 野心
——ウォール・ディストリクトのビル群が遠くに見える。眩いほど光っていた。
ジャスパーは、お金持ちは絶対に足を踏み入れない地域にいた。
下品な電飾のバー。
後ろの方では、小さな小競り合いがあちこちで起こっている。
カウンターで、ジョンと並び、ウイスキーを
口にする。
「ニック・マッケンジャー、知ってるか?」
ジャスパーの問いに、ジョンは慌てて周囲を見た。
マッケンジャーは、ウォール・ディストリクトをはじめ、セント・クロウを仕切ってる、マフィアのボスだ。
「その名前を出すな!バカヤロウ!」
「あんた、ツテはねえ?」
「あんな大物にツテなんかある訳ねえだろ!」
「そっか。」
ジャスパーは、ウイスキーのおかわりをする、
ジョンも自分にも注ぐよう言う。
「…お前、なんでツテが欲しいんだよ。」
「………」
「ポン引きとかヤクの売人なんかする気はねえ。」
「俺は、のし上がるためなら、なんでもする、
絶対にのし上がってみせる。」
いつもと雰囲気の違う、ジャスパーにジョンは困惑した。
「ヤクを上手く捌けば、それなりの小金持ちになれんだろ。」
「ヤク売った金くらいじゃ足りねえ。
…金持ちになりてえんだよ。
誰にも、見下されねえくらいにな。」
ジャスパーが人から好かれるのは、
そうなる心得を知っているからだ、
心では、誰の事も一切信用しない、気の合うジョンの事も。
——エディとリリーを除けば。
ジョンは、一瞬、ジャスパーの本質が見えた気がした…。
「ツテっていえるもんじゃねえけど…。
セントヒルタワーのペントハウスを、普段の寝泊まりに使ってるって聞いた事がある、
セントヒルタワーのなにかしらの仕事ならアテがあるかもしれねえ。」
セントヒルタワーは、ソブリンロウと呼ばれる億万長者達が住む最高級ホテルや住宅タワーが立ち並ぶ通りにある。
中でも一番最高級といわれるホテルだ。
「ほんとかよ、じゃあ頼むぜ。」
「だけどよ、清掃かドアマンか、わかんねえけど、それでいったいどうやって近づくんだよ。」
「さあね、わかんねえよ。」
——店を出る時は必ず、今のジャスパーに出せる、ありったけのチップを置いていく。
——どの層の人間にも慕われるようになるため。
ジョンと別れ、
ジャスパーは地下鉄に乗り込んだ。
電車を降りて歩いていく、リリーの住む家に。
物陰から、リリーの部屋の灯りが消えている事を確認する、ジャスパーは施設から出ると直ぐに、今持っている人脈を全て使い、
エディとリリーの里親の詳細を調べ尽くしていた。
昼間に見に来た時、あの部屋の窓に女の子らしい飾りが沢山置いてあった、夫妻には子供がいない。
(間違いねえ、あれがリリーの部屋だ)
時計は23時過ぎだ。
「おやすみ、リリー。」
小さくそう言い、次にエディのところへと向かった。歩いて30分、40分くらいか。
同じように物陰から家の様子を見る、
この家には実子の男の子供が一人いるが、もう家を出て自立している。
エディの部屋も昼に来た時に目星はついていた。
まだ、灯りがついている。
(お前の事だ、こんな時間まで勉強してんだな。
エディ…頑張れよ)
一週間振りの「秘密の訪問」を終えると、
ジャスパーは、今借りている古いアパートへと帰っていった——。
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