第4話:新たなお客は『没落令嬢』。
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【異世界『SNS』 | 検索:近くの宿 】
■ 店舗名称: 癒やしの隠れ宿『
■ カテゴリ: 宿泊・リラクゼーション・その他
■ 所在地: 王都郊外・北西の森 旧街道沿い
■ キャッチコピー: 「女性専門、願いが叶う隠れ宿」
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微増したSNSのレビューを見ながら溜め息を吐く。暇ねぇ。
今日も異世界の『禁断の宿』は平和です。あれからお客は来てません。
もっとSNSで広告を利用していった方がいいのかな? なんて悩みながらも、うちにそんなお金はなかったと思い出し、清掃作業に戻る。
「……はあ。ちょっとリズ、そこ。床を磨くならもっと腰を入れて。剣聖の踏み込みはそんなに軽いの?」
「ぐ、ぬぬ……! ナギ殿、貴殿は私をなんだと思っているのだ! 私は帝国第一騎士団が誇る、無敗の剣聖……っ。掃除など、本来なら召使いの仕事で……」
「あら、嫌なら帰っていいのよ? 破産してでもうちに通ってくれるのだったらね」
「そ、それは困る! 掃除だ、掃除をすればいいのだな! 見ていろ、この『木漏れ日』の床を、鏡のように磨き上げてみせよう!」
銀色の髪を振り乱しながら、雑巾を手に必死に床を這い回る絶世の美女。
それが、帝国最強と謳われるリズの、今の姿だ。 彼女が私の店『木漏れ日』に転がり込んできてから、数日が経っていた。最初は「普通の宿と勘違いして入店」なんていう、ラブコメ系ラノベの導入部みたいなポンコツをかましてくれた彼女だけど、今や立派な(?)うちの用心棒兼、居座り客の一号だ。
「……それにしても、あなたも物好きねえ。国を挙げてのお祭り騒ぎだったんでしょ?
私はカウンターで、自分用のハーブティーを啜りながらスマホ――魔導端末を操作する。
画面には、帝国最大のSNSのトレンドが並んでいた。
そこには『#銀髪の剣聖』『#古龍討伐成功』『#リズ様万歳』なんていうハッシュタグが、キラキラした公式画像と共に溢れかえっている。
リズは雑巾をバケツに投げ込むと、ふんと鼻を鳴らした。
「あんなトカゲ一匹、私の剣にかかれば造作もないことだ。だが……代償は大きかった。あの戦いで、私の心は摩耗し、精神は限界に達していたのだ。ナギ殿、貴殿の『
そう言って、リズは大切そうに自分のスマホを取り出した。
彼女のスマホに届いているのは、帝国上層部からの公式通知だ。
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【帝国軍司令部より通達】 20XX/0X/0X(月) 10:07(1日前)☆ ♡ ↩︎
件名:古龍討伐の功績に対する褒賞について
内容:第一騎士団リズ殿。貴殿の獅子奮迅の活躍により、北方の脅威は去った。これに伴い、以下の褒賞を授与する。
1. 特別長期休暇(90日間)の付与。
2. 報奨金 10,000,000 G の支給。
※貴殿の心身の静養を最優先とし、休暇中の公務への関与を一切禁ずる。
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「一千万ゴールドねえ……。正直、うちの店を一年間貸し切りにしてもお釣りが来るわよ、リズ」
私は内心でガッツポーズを作った。
一晩10万Gの基本コース。入会金3万G。
この太客(リズ)を離さなければ、私の老後の安泰は確定したようなものだ。
……まあ、彼女が私の「添い寝」や「耳かき」で、一晩中「ママ……ままあ……」と泣きじゃくりながら寝てしまう、重度の赤ちゃん返り患者だという事実は、帝国の広報部は夢にも思っていないだろうけど。
「ナギ殿、私は決めたのだ。この休暇と報奨金は、すべてこの店での『修行』に注ぎ込む。貴殿の指先が紡ぎ出すあの『凪』の状態……。あれを完璧に攻略し、眠らずに朝を迎えられた時こそ、私は真の意味で無敵になれる気がするのだ!」
「……はいはい。つまり、単に毎日私の膝枕で寝たいだけでしょ。いいよ、お金を払ってくれるなら、私はいくらでもあなたを甘やかしてあげる」
「なっ、言い方! 私の崇高な目的を、そんな邪な……っ!」
頬を赤くして抗議するリズ。
本当、この銀髪の剣聖は、鎧を脱げばただの
私が少し指を鳴らしただけで、「ひゃうんっ」と肩を跳ねさせる。
昨夜の添い寝でも、私の腕の中で子猫みたいに丸まって、私の胸に顔を埋めていたのはどこのどいつかしらね。
「さあ、掃除が終わったら、次はお昼寝の準備でも……」
そう言いかけた時だった。
『木漏れ日』の入り口に吊るされた、魔導式の呼び鈴が、力なく鳴った。
チリン……と、今にも消えそうな、細い音。
「……あら、お客様? リズ、悪いけど警戒を解かないでね。この辺りに迷い込む一般人なんて、滅多にいないんだから」
「心得ている。……この気配、あまりにも細いな。魔力も底を突いているようだ」
リズがいつものポンコツモードから、一瞬で「剣聖」の顔に戻る。
私はカウンター越しに扉を見つめた。
ゆっくりと開いた扉の隙間から、入り込んできたのは――。
「……たす……け……て……」
泥にまみれた、ボロボロの青いドレス。
かつては高価だったであろうその布地は、茨に引き裂かれ、見る影もない。
乱れた深い紺色の髪に、幽霊のように青白い顔。 手には、画面がバキバキに割れた一台のスマホが、必死に握りしめられていた。
その少女は、私の姿を見るなり、崩れ落ちるように膝をついた。
「ここ……は……『木漏れ日』……? SNSで、見つけたの……。女性の願いを、何でも、叶えてくれる……って……」
「もしかして……公爵家の、お嬢さん?」
私は、スマホの画面に表示されていた情報を思い出した。
最近、王都を騒がせている不穏なニュース。
『不正融資の疑いにより、公爵家が取り潰し。令嬢リネは行方不明』。
そして彼女のSNSアカウントには、今この瞬間も、無数の誹謗中傷が投げつけられ、通知の赤い数字が膨れ上がっているはずだ。
「……あらあら、かわいそうに。青い鳥が、地獄から逃げてきたってわけね」
私はカウンターを回り込み、泥だらけの彼女の前にしゃがみ込んだ。
リズが心配そうに剣の柄に手をかけているけど、私は手でそれを制する。
この子に戦う意思なんてない。あるのは、すべてを諦めた「終わらせたい」という色だけ。
「いいよ、リネ。ここへ来たからには、地獄の通知(SNS)は全部忘れさせてあげる。……ただし」
私は彼女の、汚れきった頬を指先でなぞった。
モブ顔の私の、どこにでもいるような指。
けれど、その指が彼女の肌に触れた瞬間、リネの瞳が、驚愕に大きく見開かれた。
「うちは高いわよ。入会金3万、基本料金10万。合計13万G。……払えるかしら? 没落したお姫様」
リネは、震える手でドレスの隠しポケットを探り、ボロボロになった革袋を取り出した。
中には、いくつかの宝石と、金貨。
それが、彼女が実家を追い出される時に持ち出した、命の残骸なのだろう。
「……これ、全部……あげるわ。……だから……殺して。……優しい、夢の中で……」
「殺さないわよ、うちは『癒やしの隠れ宿』だもの。……リズ、この子を風呂場へ運んで。特製の薬湯を用意しなさい。……お姫様の『お手入れ』、始めるわよ」
「……承知した。……大丈夫だ、少女よ。ナギ殿の指先は、地獄よりも心地よいぞ」
リズが優しくリネを抱え上げる。
私は、リネが落としたバキバキの魔導デバイスを拾い上げた。
画面には、今もなお『死ね』『泥棒令嬢』『お前の居場所なんてどこにもない』という残酷な言葉が、絶え間なく流れている。
「……居場所なら、ここにあるよ。13万G分の、最高級の居場所がね」
私は機器の電源をオフにした。
地獄との通信を断ち切り、私は満足げに微笑む。
さて。 古龍を倒した最強の騎士と、すべてを失った没落令嬢。
私の「モブ顔」に、これ以上の贅沢な客はいないね。
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宿屋のモブ女子に転生した私、異世界で『百合風俗』を開店する。〜女性専門の夜の店で磨いた技術で帝国最強の女剣聖が「ママ」と鳴くまで甘やかしてあげた〜 駄駄駄 @dadada_dayo
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