第2話:『ママ』・モード。

「……っ、ふ、あ……。な、なんだ、これは……っ」


湿り気を帯びた熱気が立ち込める浴室。


最高級の薬草オイルをたっぷり含んだ私の指が、リズの背中に吸い付くように滑った瞬間、彼女の喉から、帝国騎士団員が聞けば即座に卒倒するような、甘ったるい掠れた声が漏れた。


鎧を脱ぎ捨てたリズの背中は、まさに神が作り上げた芸術品だった。


白く、しなやかで、無駄な脂肪なんて一切ない。だが、その美しい皮膚の下にある筋肉は、三週間に及ぶ激戦のせいで、岩のように硬直して彼女自身を締め付けていた。


「リズ様、そんなに力を入れないで。私の指は、あなたを傷つける剣じゃないわ。ただ、あなたを甘やかすための道具よ?」


私は、彼女の肩甲骨の際にある、疲れが澱みのように溜まった急所に狙いを定めた。


そこを、ゆっくりと、だが確実に。指の腹でじわりと圧をかけていく。


「ひ、あぅ……っ! そこ……そんな、強く……っ。ま、待て、ナギ殿、私は……くっ、ふ、あぁぁ……っ!」


人類最強の剣聖が、たかが指先一つの刺激に耐えきれず、大理石の床に膝をつきそうになる。


私は容赦しない。


指先を微細に振動させ、硬くなった筋膜を一本一本解きほぐしていく。彼女の「最強の鎧」を、内側から、肉のレベルで解していくのだ。


「ほら、ここ。ガチガチじゃない? ……これじゃ、剣を振るたびに自分の体が悲鳴を上げていたでしょ?」


「……っ、あ……。そ、そう……かもしれない。……私は、ただ……勝たねばならなかった……。誰にも、弱みを見せるわけには……いかな……っ、あぁっ!」


私の指が、汗ばんだ首筋から鎖骨のくぼみへと滑り降りる。


敏感な場所に触れるたび、彼女の白皙の肌が、熟した果実のように上気していく。


ふふっ。無敗の剣聖様が、モブな私の指先一本でこんなに無防備に、涙目で震えている。出会ったばかりだが、その姿にちょっと可愛いと思ってしまう。


剣では勝てなくても、この領域なら私の独壇場だ。


念入りに全身を磨き上げ、彼女の「戦士としての緊張」を根こそぎ奪い取った後、私は彼女に一着の服を差し出した。私の私物である、オーバーサイズの白いシャツ。


前世では「彼シャツ」なんて呼ばれていたものだ。なぜこれを選択したのかって? ……もちろん私の趣味だから!


「……ナギ殿。これは、少々……スカートにしては丈が短すぎはしないか? それに、その……落ち着かん」


湯上がりのリズは、案の定、シャツの裾からすらりと伸びた無防備な太ももと、隙間から露出したお腹を気にしながら、もじもじと立っていた。


ボタンを掛け違えているせいで、豊かな胸のラインが際どく覗いているが、本人は疲労と快感の余韻でそれどころじゃないらしい。


「いいの、ここは宿なんだから。……さあ、次は食事。冷めないうちに召し上がれ」


私が手作りした、滋養強壮に特化した特製スープ。


ひと口、彼女がそれを口に含んだ瞬間、リズの瞳からぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちた。


「……おいしい。……温かい。……こんなに、優しい味、私は……」


胃袋を掴むのは、心の防壁を破壊する最短ルートだ。


極限まで疲弊し、心身ともに「受け入れ態勢」になった彼女を、私は寝台へと誘った。


「さて。最後の仕上げよ? ……『オプション:ママ・モード』の時間」


私はベッドに座り、自分の太ももをパタパタと叩く。


「おいで、リズ。いい子ね。……お耳、掃除してあげるから」


「……なっ、ナギ殿、私は二十歳だぞ! そんな子供のような……」


「いいえ。今のあなたは、私の大事な『赤ちゃん』よ。……さあ、膝の上へ」


有無を言わさぬ圧に押され、最強の剣聖は、おずおずと私の膝に頭を預けた。


頭が乗った瞬間、私の太ももの柔らかさに、リズの背中がビクンと跳ねる。


「……よしよし。頑張ったわね、リズ。……もう、誰とも戦わなくていいのよ」


私は彼女の頭を優しく撫で、竹製の耳かきをそっと耳孔へと差し込んだ。


カリッ、という乾いた、心地よい振動。


耳元で、私は「ママ」になりきって、甘い吐息を混ぜながら囁き続ける。


「……怖くないわ。私が守ってあげる。……だから、全部私に預けて……」


「……っ、ふ……あ…………まま……」


ついに出た。


最強の騎士の口から漏れた、あまりにも無防備な呟き。


彼女の手は、私のシャツの裾をぎゅっと掴み、膝の上で完全に丸まっている。


シャツの裾から、引き締まっているのに柔らかそうな「お腹」がポロリと露出し、安心しきったように規則正しく上下している。


私は耳かきを終え、そのまま彼女を抱きしめるようにして、ベッドへ倒れ込んだ。


添い寝の開始だ。


彼女の銀髪を指で梳きながら、私はずっと「よしよし」とあやし続けた。


「……ナギ……ママ。……すき…………」


最強の騎士は、私の胸元に顔を埋め、赤ん坊のようにスースーと寝息を立て始めた。


……さて。 本当なら、ここからオプションの『本番』へと移るはずだったのだが。


腕の中で、完全に「ふにゃふにゃ」になって、幸せそうに爆睡しているリズを見下ろす。


膝枕や耳かき、添い寝しながらの「よしよし」で、彼女の身体は完全に快楽の海へと沈んでいたのだ。


「人類最強」が、無防備に腹を出して寝ている。


これじゃあ、『本番』なんてやっても、彼女の脳が溶けてしまう。


私は、すやすやと赤ん坊のような寝息を立て、気持ちよさそうに眠る彼女の寝顔を眺めながら、そっと灯りを消すことにした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る