たった10センチが遠い君

 かなではいつだって、あたしより10センチ遠い。

 あたしが距離を詰めようとしたら「近すぎ」って言って少し離れる。

 そっか、ってあたしは笑うけど、その距離に届きたいから、こっそり近付く。指の先がちょこっと触れるかどうか、ってとこまで。

 でも、気付いたときにはまた元に戻ってる。

 そんな照れ屋なとこも、あたしは好き。

 だから、そんな思いを伝えるために。


「だーいすき」


 って茶化すように抱きつく。


「はいはい」


 そうすると、決まって奏はあたしの頭を撫でてくれる。それが心地よくて、つい同じことをしてしまう。

 奏は大人だ。

 子供っぽいあたしの行動とか、全部受け止めて、それでも肝心なとこだけは一歩線を引いていて。

 あたしの想いより上にいるみたいで。

 なんだか寂しくなる。

 いつからかあたしが抱きつく度に、耳が赤くなってるの、気付いてないことだけが、子供みたいで。

 愛しの、だ。



 花火大会に誘ったのは、あたしの思いつき。

 人の多いとこが苦手なのは昔からで、それでも奏は付いてきてくれるって信じてた。

 待ち遠しかった。

 奏もそうだと良いなって、授業中、こっそり顔を覗いてみた。

 少し顔が赤く見えたのは、たぶん偶然じゃない。



 お祭りの日。あたしは駅前の噴水広場にいた。

 珍しく奏より早い時間に待ち合わせ場所に着いたあたし。いつもより呼吸が浅い気がして、深呼吸ばかり繰り返した。

 どうしてだろう。

 奏の浴衣姿を思い浮かべただけで、胸がときめくのは。

 あたしよりも背が高いから、きっとよく似合う。美人さんだし、花火よりも目立つかもしれないから。

 それが理由なだけなんだ、って言い聞かせて、また息をした。

 奏の姿が見えたのは、ちょうどそのタイミングだった。


 夜に照るライト越し、蒼い紫陽花模様が風に吹かれていて。

 噴水なんかより、よっぽど。

 魅力的だった。


 奏が、ふと、あたしの方を見たから。

 悟られないよう、すぐに駆けた。

 心臓の音、聞かれてないといいな。



「──花火、すっごく綺麗だねっ!」


 会場で、出店を回った。

 奏は笑って、あたしも嬉しくなった。

 だから、花火を一緒に見た時も、笑ってくれると思ってた。

 だけど、音で埋め尽くされて、奏の声は聞こえない。

 代わりに触れあった、手の熱が、何かの答えみたいで。

 胸に痛みを残しただけだった。

 あたしの貧しい心にほのかに火が灯る。

 燻っていた、思いの丈が、咲くように溢れてくるのは、きっと花火が綺麗すぎるから。


 ……ねぇ、奏はさ。

 あたしのこと、どう思ってるのかな。

 教えてほしい。いっつも、あたしばっか喋ってるの、本当は気付いてるんだよ。

 そうしなきゃ、奏の隣にいられない。怖くなっちゃう。奏は口下手だから。

 ──だから。

 あたし、もっと奏のこと、知りたいな。


 顔が見たくて、少し視線をずらした。

 奏の目線は、花火なんて見ていないはずなのに。あたしのことも、見えていないような気がして。


 上空で上がる花火は近くて遠い。

 奏との距離も、やっぱり10センチ、遠い。

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恋と名のつくものだとして。 鮎のユメ @sweetfish-D

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