おまじない
なにもかもが上手くいかない日だった。
上手くいかないどころか、失敗の連続だった。
新人がやるようなミスを重ねて、新人でもやらないようなミスまで犯して、同じ部署の人たちに謝り通しで、一日中針のむしろに座ってるような気持ちだった。
もう新人なんて呼べる年齢じゃない。中堅にさしかかり、新人の教育だって任されてきている。それなのに新人に尻拭いまでしてもらった。
穴があったら入りたいとは、まさに今日の私の気持ちだった。
仕事に対して少しずつ自信を持てていたし、やりがいや楽しさすら感じ始めていた。
そこにきての、この大ポカ。まったく厄年でもないのに、なんて日だ。
ため息の帰り道。
終電間際の時間とあって道行く人はいないし、住宅街に入って車通りもない。街灯が照らすひとりぼっちの道を、私は情けなさと一緒に歩いていた。
下を向いてとぼとぼと歩いていると、白線がやけに目についた。ふと思い出したのは、子どものころによくやったおまじない。
白線を踏み続けて家に帰れたら、きっといいことがある。
どうせ誰もいないし、いっちょやってみるか。
履き疲れたローファーを白線に乗せると、それだけでなんだかちょっとわくわくした。硬くなったふくらはぎもやわらかくなったような気がした。
コッコッコッとリズムよく歩いてみると、今日のミスの、いや、ポカって呼んじゃおう。そっちのほうがかわいいし、ちょっと気楽だし。
コッコッコッとリズムよく歩いてみると、軽い足音に今日のポカが成仏してゆくような気がした。そう、ポクポクポクってお経を唱えて、悪霊が退散していくような感じで。
あれ、お経って唱えるでいいんだっけ。
スマホを取り出そうとしてやめた。今日はそんな細かいこと、気にしないでいいや。歩こう歩こう私は元気、はあんまりないけど、歩こう。
ただ無心になって白線を踏んでゆく。きっといいことがあるんだって、そう信じて。
ポカは全部成仏してくれることなんてなくて、たぶんシャワー浴びてる時とか、髪を乾かしてる時とか、寝る前とか特に思い出す。あいつらはしぶといから。
でもこのコッコッコッって足音を思い出せば、すこしだけ心は軽くなる。白線のおまじないは、きっと私を元気づけてくれる。
まあ、から元気なんだけど、今はそれでじゅうぶん。たぶん今夜はよく眠れる。
だってこの白線はきっと、家まで続いているから。だからぜんぶ、大丈夫なんだ。
人生いろいろ、短編いろいろ みそ @miso1213
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