第6話 作戦開始②
『っ、はい!』
勢いよく正面に向き直り、まだ間に合うかと急いで挙手する。
(マジか!マジか!マジか!)
胸中は語彙力をどこかに吹き飛ばす勢いで暴れまくっていた。コントロールができなくなったみたいに若干震えて止まらない挙手した右腕。心地よい春の穏やかな気温の中にいるはずなのに、制服の下でじんわりと汗が浮かび上がったのが分かる。
パチリと、学級委員長と視線が合う。一秒前後のお互いに無言の時間が、何故か長く感じられた。
俺にとっては長く、学級委員長にとってはきっと一瞬だろう間の後に、無言の時間は終わる。終わらせたのは、学級委員長の方からだった。
『白峰さんと...黒瀬くんの2人だね。うん、男女1人ずつだしピッタリ枠も2人分だから、体育委員は2人で決定するね』
サラサラと白チョークで追記される[白峰彩月]と[黒瀬透]の文字。目を細めて見ても、ゴシゴシと両目で擦ってからよく見ても、視界に捉えた文字は一欠片も変わらなかった。
(ーーーーーっっっ!!、よっっっしゃあああああああ!!!!!)
完全に作戦勝ちした瞬間だった。
『それじゃあ、とおると白峰さん2人のますますの進展の祈願と、作戦大成功を祝して...かんぱーい!』
『『かんぱーい!』』
『(コイツらテンション高っ)...乾杯』
芝生の上に囲むように向き合って座り、お互いに一つずつ持つ冷えたペットボトルをコツリコツリと当て交わす。時間は12時過ぎのお昼休み。今までは昼休みの時間となれば食堂で4人揃って昼食を取っていたが、今日はあまり他生徒には話を聞かれないようにということで、中庭の、近場に人がいない空きスペースで昼食を取ろうとなった。
話を聞かれる心配がない程度に離れた位置に何グループか生徒が集まっており、俺達と同じく昼食を集団で取っている。
吹き抜ける風は柔く、真上に昇る太陽はポカポカと辺りを照らしていた。
『無事に一緒の委員になれて良かったじゃん!俺的には、くろちゃんが体育委員に決まった後にクラスメイトがザワザワしたやつが一番面白かったけど!』
『あぁー、『我が校の無気力系男子代表のあの黒瀬がまさかの体育委員会に?!』って騒いでたやつな。確かに、オレらから見ても体育委員は透のキャラじゃねぇってなるし』
『俺も笑っちゃったよー。『天変地異だ!』、『春なのに大雪が降るぞ!』、『雪だるまパーティーだ!』とか、散々な言われようだったしねー』
『今回のクラスメイトマジで騒がしいのばっかでダル。てか、お前らも悪ノリしてやんややんや言ってたの知ってるんだからな』
3人の言う通り、作戦成功が決まったあの直後のクラスメイト達のリアクションは正直うるさかった。去年と同じクラスメイトだった人間なんて新しいクラスには片手で数える程度しかいなかったはずだが、やはりいつメンの知名度に比例してなのか、俺自身の普段学校でみせる態度や言動なども多少広く認知されているみたいだ。
確かに自分でも、己が周囲の人と比べて積極性や意欲に欠けており、どちらかと言えばあまり活動的ではない省エネタイプだと思っている。実際、ほぼ強制入部だった部活動も『興味無いし面倒』という理由でサボタージュしていた。そのため、『あの黒瀬が!』と騒がれるのも道理かと納得はするが、にしてもあそこまでワイワイガヤガヤ騒ぎ立てるとは思っていなかった。
『しかし、まさかジャンケンの出番も無しに、あんなに上手くいくとはなぁ』
緑茶のペットボトル片手に染み染みと言う翔のその一言に、そういえばと俺は3人に謝らなければならないことを思い出した。
『3人とも、先ずはありがとな。おかげで一緒の委員会になれた。あと...悪かった。ジャンケン参加の為に、体育委員の番がくるまでの間に入りたい委員があっても、スルーしてくれてたんだよな』
今後一年間の委員会活動が決まる委員会決めにも関わらず、俺の[好きな人と一緒の委員会に入りたい]なんて願いの為だけに己を二の次に協力してくれていた3人。高校生活の中で委員会活動に割かなくてはいけない時間はどの委員会も決して短くはないにも関わらず...この中の誰一人として、俺よりも先に委員会を決定させることなく、あの場で見守っていてくれていた。
『謝んなくていいぜ!オレは部活の時間に影響があまり出ない委員会なら何でも良かったし、結果、メインの活動時間帯が放課後以外の風紀委員会に入れたしな!』
『全然気にしなくてOKだし、実際俺も気にしてないからね!どの委員会も入ってみたい気持ちはあったし。けど、去年活動してて楽しかった放送委員にまた入れたのはよかったぁ』
『俺もー。たくさんの知り合いから話聞いて一番楽そうだった美化委員に入れたからー、大満足のオールオッケーだよ』
どうやら3人とも、狙いの委員会に無事入れたらしい。表情はどれも晴れやかだ。それを聞いて安心したし、俺の罪悪感を失くそうと気遣いを含んだ言葉の数々にジンと心が震えた。
『お礼は[仲が進展したら即報告]でいいよー』
『おっ、それいいな!透、報告待ってんぜ!』
『クロちゃんファイト!』
暖かな陽だまりの中で、購買で買った惣菜パン片手に友人達が笑っている。
恋愛相談した時から面倒そうな顔やどうでもいいといった顔など一切見せず、むしろ、俺以上に真剣な表情や一喜一憂してくれていた友人達。
(俺のためにこんなにもしてくれたんだ。良い知らせで、協力して良かったって思ってほしい...)
『...うん。俺、頑張ってみる』
[頑張る]なんて普段全く口にしないワードに、どこか気恥ずかしい気持ちになる。しかしそれも、3人の『頑張れ』という声掛けで気にならなくなった。
(まずは...コミュニケーションを取ることから少しずつ)
力になってくれた友人達の期待に応えたい気持ちが勇気に変わって、俺の心に柔らかな火を灯しはじめた。
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