第3話 ホームルームアフター②
『あ、森本くんたちだっ』
『放課後に4人で居るの珍しっ!』
廊下の端に寄って駄弁っていた生徒達が、通り過ぎて行く俺達に気付いて目を向ける。女子に関しては、若干興奮の滲んだ声すら聞こえてきた。
(そんなに騒ぐほどでもないと思うんだけどなぁ)
一年生の頃から薄々感じていたが、俺達4人は何かと目立っている。主に顔面が理由だが。コイツら3人は俗に言うイケメンだし、俺もその部類に入るらしい。中学時代から周りに顔が良いと言われ続ければ、俺自身そりゃ自覚もする。
顔面要素プラス、他3人に関しては、[野球部の未来のエース]だの、[ピアスやネックレスをジャラジャラ付けた派手顔イケメン]だの、[人懐っこい巨人]だの、騒がれやすい別要素も兼ね揃えていた。そんな校内のちょっとした有名人同士で連んでいれば、自然と注目度も上がる。
俺自身は多少人に好意的に見られやすい程度に顔が整っているぐらいで、圭や一歌みたいに特段目立つ容姿をしていたり、翔みたいに部活などで実績を残している訳ではないのだが、一年一学期の頃から毎日のようにコイツらと昼休みや放課後に顔を合わせているせいか、周囲の人間から見たら俺もコイツらと同じようなものらしい。特に接点のないはずの他クラスの同級生に留まらず、何故か全く関わりの無い上級生達からも『連絡先を交換したい』と時折声をかけられる。俺なんかの連絡先をゲットして、一体何に使うつもりなんだか。自身の連絡先を悪用される可能性を危惧して『連絡先を渡す必要が特に無いなら無理』と断りを入れるようにすれば少し落ち着いたが、何かと共通の話題を見つけて話しかけてくる人間が代わりに増えた。直近での話だと、とある他クラス同級生男子から『黒瀬って最近[ゴッドアームレスリング部の神力君]って漫画にどハマりしてるってホント?実は俺もなんだよね!あと1週間くらいで新刊出るし、連絡先交換して感想とか色々話さね?』と言われた。なんで俺がその漫画にハマってるの知ってんの?と反射で疑問をぶつければ、『結城が言ってた』と返される。秒で納得した。翔の家に遊びに行った時に読んで『コレおもしろ』と既刊全部読破させてもらったから、アイツは知っていて当然。ちなみにその生徒とは連絡先を交換した。
閑話休題。
『あれ?圭ちゃん達今日は4人揃ってどっか遊びに行くん?』
俺達が2人か3人で居るところには割と他の生徒も気兼ねなく会話に混じってきたりするが、4人揃っている時は話しかけ難い何かがあるのか、ざわめきだす連中のほとんどは基本遠目に眺めるだけ。しかし中には、このように気軽に声をかけてくる生徒も稀にいる。
『そう!けーちゃんオススメのラーメン屋に、今からみんなで行ってくんの!』
『んー、ラーメンって太りやすいからウチらはパス!今度4人も一緒にケーキバイキング行こーよ!』
『はー?、そもそもキミたちのこと俺誘ってないしー。勝手に振られた気分にさせないでくださーい。俺ら美味いモン食うのに忙しいから、ケーキは行けたら行くってカンジでよろー』
『それ絶対来ない返事じゃん!けち!ラーメン屋いってらー!』
今回声をかけてきた女子グループは、皆手を振って『また明日!』と反対方向へ去っていった。
『ふぅ、今の子達はしつこいタイプじゃなくてよかったぁ。今から行くラーメン屋の大将、店でワーワー騒がれんの怒鳴っちゃうぐらい嫌がるんだよねー』
『ふーん...だってさ。気をつけろよ、一歌』
『くろちゃんのその名指し、不服なんだけど!』
振り返り頬を膨らませて怒ってますアピールをしてくる一歌。こんな人混みの中で後ろ見ながら歩くな。そのパンパンの頬を人差し指でブスリと押せば、プシュゥと簡単に萎む。
『ホラ、前見て歩けよ。危ねぇだろーが』
『くろちゃんがラーメン屋で俺の隣の席に座らなきゃ許さないから!』
(ホント、幼稚園児みたいなやつ。)
はいはいと頷けば、言質取った!とはしゃぎ出す。子供過ぎるところは、コイツが森本家の三兄弟末っ子で甘やかされて育ってきた弊害だろうか。
『ーーー...で、なんで4人掛けテーブル席で1対3で分かれてんのかなー?』
テーブル席の壁側奥から一歌、俺、翔の順で3人が並び、その対面に座る圭が不服そうに眉を寄らせて台に肘をついている。
平日の13時過ぎという時間帯だからか、店内には俺達以外の客は3人程度。辺りを濃く漂うスープの匂いや脂っこいやや湿った空気はいかにもラーメン店って感じだ。
『俺はくろちゃんの隣って約束してたもんねー!』
『騒がしいやつの隣は気が進まねぇけど、約束は約束だし。』
『まぁ、二人は分かるよー。けどさ、とおるの隣に半ケツでなんとか座ってるそこのゴリラは明らかに可笑しいよねー?身体半分席からはみ出てんのに何真顔でお冷や飲んでんのさ』
『おい、飲食店で[ケツ]とか下品なこと言うなよな!俺達は紳士で華の男子高校生だぞ!』
『なんでそれには反応出来るのに無理に偏った座席には疑問を持たないのさ?いいから俺の隣に来ときなー。たいしょー!濃厚味噌ネギ増し増しラーメンと半チャーハンを4つずつー!』
翔の飲みかけお冷やグラスをサッと自身の隣席前まで移動させ、圭は大声で厨房に向かって注文を入れた。すると、『はいよー!』と野太い応答が店内に響いた。
連れられて初来店した俺達は未だメニュー表すら見ていないのだが、圭のオススメ目当てで来たのだから問題はない。一歌も翔も注文内容に対して特に何も言わなかった。翔は離されたお冷やを追うように渋々圭の隣へ席移動はしたが。
『かけるはなんで俺の隣が不服なワケー?』
『嫌なワケじゃねぇよ。ただ、透が逃げねぇように退路を塞いでただけだっての』
『は?俺?』
逃げないように、ってなんでだよ。俺何かしたか?
訳が分からず首を傾げる俺を他所に、圭は気まずげにお冷やを啜る翔を見やって意味深に笑みを浮かべる。
『...へぇ。かけるは気付いた上にそこまで頭が回ったんだねぇ』
すごいじゃんと褒める圭に『たまたまな』と応える翔。
(翔は気付いた?マジでどういうこと?)
ますます混乱し始める俺へ、圭はニッコリと笑ってみせた。
『ねぇねぇ、とおる。一つ聞きたいことがあるんだよねー』
厨房方面からジュワーとフライパンで何かを炒める香ばしい音が聞こえてくる。それに反応した一歌が『うまそう』と呟いてゴクリと唾を飲み込んだ。その隣で、俺は走る緊張によりゴクリと喉を鳴らす。
カラン、と。正面に用意された俺用のお冷やグラスから氷の踊る音がいやに響いて聞こえた。
『...な、何?』
警戒を露わにした俺に顔色を変えることなく、圭は言葉を続けた。
決して張り上げた声ではないが、聞き逃しを許さないような圧を孕んだ声音でーーー
『もしかして今日さ、...恋、しちゃってたりしない?』
『ーーーっっ?!?!?!?!?!』
何でそれを知っているだの、言いたいことは飲み込んで。
反射で身体は動き出していた。しかし、動揺は抑えられず、慌てて腰を上げたまでは良かったが、動かした太腿はテーブル縁にゴンッと思いっきりぶつけてしまう。その痛みに思わず立ち止まった瞬間に片腕を一歌に、もう片腕を確保に立ち上がった翔に捕獲された。
『その反応はーーー当たりってこと、だよねー?』
まるで駆け引きに勝ったかのような上目遣いのしたり顔。
逃がさないぞと言いたげにギュッと両腕を掴む二つの掌に力が入ったのが分かる。
(うわ、完全にしてやられた...)
どうやら先程の圭の笑みは、悪魔の悪企みだったみたいだ。
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