第2話 ホームルームアフター①
自己紹介を経て担任が明日の日程を軽く説明した後は、PTA用のプリントや1学期用時間割を配布してホームルームは終了。係や委員会などの役割決めは、明日の2時間目の総合の時間にするらしい。
元々今日は始業式とクラス替えとホームルームが終われば昼前に生徒は基本下校する流れになっており、本日部活動が午後にある生徒のみ、部室に留まって昼食を取ってもいいことになっている。
この学校の生徒はみな、何かしらの部活に入部しなければいけない決まりがあり、俺も例外ではない。とある部活に去年から引き続き在籍しているのだが...正直初回以降参加していない幽霊部員なので、今日部活のある日だろうが無い日だろうが関係無く帰宅させてもらおう。
机横に下げていた通学カバンに筆箱を突っ込み、肩に掛けて教室を出ようとした時、ポンと軽く肩を掴まれた。
『とおるー、この後ヒマ?』
肩に置かれた手から徐々に視線を上げていけば、そこには赤茶に髪を染め、雰囲気がいかにもなチャラい男が立っていた。
ていうかコイツ、今日始業式前にあった身だしなみチェックをまさかその頭で挑んだのかよ。うちの学校、普段の髪染めとピアスは特に何も注意されないけど、始業式と入学式、卒業式がある日は注意の対象になるんだが。ピアスもガッツリ両耳に目立つヤツ付けてるし。俺はいつもの癖で付けたピアスわざわざ家に戻って外してきたってのに。
(まぁ、これまで何回か反省文書かされても反省してるように見えなかったし、コイツの規則無視は今更か...。どうせ今回も、原稿用紙渡されれば涼しい顔して書くんだろうな)
去年から同じクラスだったコイツとは2年目の付き合いになる。名前は清水圭(しみず けい)。見た目だけのチャラさで言えば、学年トップクラスの男だ。何故『見た目だけで言えば』が頭に付くのかについては、理由がいくつかある。その内の一つが『意外とテストで点が稼げる』なのは、仲良いグループ(いつメン)内での定番ネタだった。
ちなみに、今回のクラスで圭は出席番号が俺と連番になっていて、座席は真後ろだ。
『ラーメン食べに行かねー?こないだ美味しいとこ見つけてさぁ、ちょっと離れてて電車使わないといけないところにあるから面倒いかもだけど、味はマジで保証する!特に濃厚味噌ラーメンのスープが美味くてさぁ』
ゴールドのピアスに負けないニッカリ笑顔で、ラーメン屋の推しポイントをつらつらと話しだす。『麺のコシが強くていい』やら、『店内が割と広い』やら、『店の厳つい大将は絶対奥さんの尻に敷かれているタイプ』やら...待て、三つ目に変な情報混ざってんぞ。『思わず気になっちゃう情報でしょー』じゃねぇよ。それ聞いてソワソワすんのお前くらいだわ。
しかし、時間帯的に空腹が気になってくるタイミングというのもあって、[最近圭が見つけた美味いラーメン]にはしっかりと興味を惹かれた。
『濃厚味噌ラーメンか...いいね。行こ』
『よっしゃー、今日の飯友ゲット!替え玉まで食らい尽くしてやろうぜ〜』
『俺もお前もそんな大食いキャラじゃないだろーが』
ピースしながら調子の良いことを言う友人に呆れてため息を吐く。しかし、この男がいつも紹介する店にハズレは一度も無かった。恐らく、味覚や好みが似ているのだろう。今回のラーメン屋も、きっと期待出来る。
『圭と透、ラーメン屋行くん?なら俺らも連れてって!』
ふと少しばかり離れた位置から近づいてくる影。無邪気な笑顔に元気が有り余っている声音で、影の正体ーーー無駄に背の高い金髪の男が話しかけてきた。いや、なんでお前も黒染めしてねぇんだよ。俺の周りは絶賛反抗期な奴らばかりか。
今年度の生徒指導の先生は、前年度に引き続き校内一のイカついビジュアルで有名な乃木先生だ。怒ると背後に金棒担いだ鬼が見えるほど怖い。注意されるのが分かっていながら、一体どんなメンタルで登校して来たのやら。
その金髪のやや斜め後ろから続くように近寄ってきた男は、腹に手を当ててこれ見よがしにはぁと重い息を吐く。
『オレもさっきの圭のセールストークですっかりラーメンの胃になったわ。もうラーメン食わんとオレの胃がストライキ起こしてしまう』
『飯友にいつメンが増えるのは大歓迎だけどー、仮に、ストライキが起きたらどうなるん?』
『ラーメン連れてってくれるまで床で駄々こねて暴れる』
(やめろ、共感性羞恥が働くわ。他人のフリしてやるからな)
『えー、逆に見たいわぁソレ』
(おま、正気か?コイツは幼児より図体のデカい16歳児だぞ!)
『とおるも見たいよねー?だってあれでしょ、人間版セミファイナル』
オレの必殺駄々こねを死にかけのセミと一緒にすんじゃねぇ!、と肩を怒らせ文句を言っているガッツリ短めでさっぱりした黒髪に八重歯が特徴の男は、圭と同じくいつメンの結城翔(ゆうき かける)。野球部でピッチャーを務める、バチバチの体育会系だ。ちなみに制服であるブレザーの上からは分かりにくいが、コイツの腹は高校1年生の時から既にシックスパックだった。比例するのように握力もすごい。多分もう少しパワーアップしたら林檎も片手で潰せるだろう。俺達は親愛を込めてたまにコイツのことをゴリラと呼ぶ。
『俺もかけちゃんも今日部活無いんよ。校長の長話聞いてたら余計にお腹空いたし、今はガッツリ食べたい気分!』
『ボケーっと聞き流すだけのくせに、何が余計に腹減るだよ。元々お前の身体は燃費悪かっただろうが』
くろちゃん辛辣!、と両手で顔を覆っておいおい泣き真似を始めた男は、他二人と同じくいつメンの森本一歌(もりもと いちか)。始業式にも関わらず学校規則に喧嘩を売る髪色をしているが、こう見えて上下関係が厳しいと噂のバスケ部に属している。まぁ恵まれた身長ゆえに部活では大活躍しているみたいだし、人懐っこい性格をしているため、多少甘やかされているのだろう。人間関係で問題を起こしたとは全く聞かないし、たまにバスケ部の先輩方からジュースを奢られている場面を見る。
『あ、ヤバ。後15分でラーメン屋方面行きの電車が出るじゃん。そろぼち学校出ようぜー。今日はラーメン食いながらいつメンみんな同クラになっておめでとうの会やろー』
『え、お祝いするの?だったらラーメンじゃなくて肉でしょ肉!』
『アホ一歌、肉に変えたらラーメン食えないことに気付いた翔がセミファイナルしちゃうだろ』
『透。お前には、有象無象の蝉と違ってオレがどれだけ美しく地面とダンスを踊れるのか、格の違いってやつを見せつけてやらなきゃいけないみたいだなぁ!』
『いらねぇし、やめとけ有象無象のゴリラ。学校を震源地にする気か?』
『ほらほらー、一本逃すと次は45分後だからねー。さっさと学校出るよー』
スマホの検索で出したであろう、学校からの最寄駅の発着時刻欄を指でトントンと示しながら、『じゃれ合ってないで行くよー』と圭が急かす。
『別に、じゃれ合ってる訳じゃないし。一歌の背がバカ高いから羨ましくて二人に八つ当たりしてる訳じゃないし』
『透、本音が漏れてんぞ。しかもその言い分だと、オレはただの巻き添えか?』
『いいじゃん、173センチもあれば。くろちゃんは夜更かしするから身長がそれ以上伸びないんだよ!俺みたいに健康で文化的な生活をしないと!』
『じゃあ毎日朝練のために11時くらいに寝てるオレの身長が171センチで止まったのは?』
『ゴリラだからじゃない?かけちゃんは、栄養全部筋肉に吸い取られてるんだよ』
『解せぬ』
(武士みたいな返事すんな)
『だからって、いちかの10時に寝て4時に起きる生活はマジ勘弁。早寝早起き過ぎてもはや、おじいちゃんじゃんねー』
『『それな』』
『はぁ?!心も体もまだピチピチの高校生ですぅ』
『ウケる!いちか、ピチピチって現代だと[死語]になるらしいよー。俺のばーちゃんがピラティス帰りに言ってたー』
『えっ、けーちゃんのばぁちゃんピラティスしてんの?!今年でばぁちゃん70歳って言ってなかったっけ?!すげぇじゃん!』
各々通学カバンを持って廊下に出ながら、下校する生徒の波に乗って歩く。
他のクラスは一足先にホームルームが終わったばかりなのか、廊下の人口密度はやや混雑気味だ。そんな廊下のど真ん中を、圭と一歌が横並びに堂々と歩いていく。その二人の後方を、俺と翔が同じく横並びで続いた。
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