だって世界はいつも綺麗だ

竜胆

第1話 ファーストインパクト



 初めてしかとその人を視界に捉えたのは、高校2年生に進級した1学期始業式の後にある、ホームルーム中のクラス内自己紹介の時。


『白峰彩月(しらみね さつき)です。部活は陸上部に入っています。』


 女性にしてはやや低めの落ち着いた声。

 名前のあかさたな順に配置された座席の関係で、校庭が眺められる窓側端列の前から4番目の席に立つ彼女。

 臍の位置まで伸ばされた黒髪は直毛で、昼前の暖かい気候の中開けられた教室の横窓から入り込んでくるそよ風で毛先が僅かに揺られている。

 眉にかかる程度で切り揃えられた前髪からは、やや吊り目気味な切れ長の瞳が覗いていた。


 そんな彼女を、俺は二つ前の座席から顔だけ後ろを向けて眺める。

 いや、正確には...彼女の凛とした花のような佇まいに、目を奪われていた。


『あと...あれは趣味?になるのかな?...は、ジョギングです。土日はほぼ毎週走ってます。よろしくお願いします』


数人の女子からのすごーい!コールと、いかにも陽な男子数人のかっけぇ!コールで教室が賑わう。

 同学年女子と比べたら少し高めの身長である彼女は、騒ぐクラスメイトに『褒めてくれてサンキュ』と弧を描いた唇で軽く返して椅子に座った。


『はいはい、落ち着けお前ら。白峰の後ろ、気にせず続けて自己紹介しろー』


『タカ先!おれ、白峰よりかっこいい自己紹介出来ねぇよ!どうすればいい?!』


『タカ先言うな。高山先生と呼べー。趣味をなんかカッコ良さそうに言えばいいだろー。お前、趣味は?』


『ゲーセンのクレーンゲームっす!』


『じゃあ、クレーンの達人って言っとけ』


 タカ先それ絶妙にダサい!と喚く男子にクラスメイト達は遠慮なく笑う。先程の彼女も、右手で口元をやや隠しながら肩を震わせていた。彼女の体は後ろの彼ではなく教卓のある正面を向いていたため、見惚れたままずっと見つめ続けていた俺には、間の席一人分を挟んでハッキリと彼女の笑っている表情が分かる。


(笑ったかお、かわい)


 彼女をクールに魅せていた吊り気味のアーモンドアイは、笑うと目の形がふんわり緩み、清楚で優しげな印象になる。

 

 シンプルに、気付けば恋に落ちていた。


 俺の人生が大きく変わった瞬間は、彼女にとってはなんてことない日常の一コマ。

 この時の俺にとっても、特別に何かが起きたと認識していた訳ではない。

 ただ、初めて彼女を真正面から見つめ、見惚れていただけ。

 けれど確かに、忘れられない瞬間だった。

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