17章:初めて会ったときから左手が

「頼む、アリカについて知っていることを教えて欲しい……」


全てにおいて蚊帳の外であったことを自覚したわたしは、アジトに乗り込んだ勢いはすっかり萎み、藁にもすがる思いでUに懇願していた。


Uはというと相変わらず背筋を伸ばしたまま椅子に美しく座り、初対面の時と態度は何ら変わりがない。


「レディは僕と同じく、元・人間でございます。

 禁忌である生体頭脳移植を成功させた、世界初となる特別なアンドロイド。

 それがレディ」


「人間……? アリカが?」


「何を隠そう、世界2番目の移植例はこの僕です。

 レディが確立した移植術によって、僕は瀕死の重傷から生を勝ち取った。

 ……いや、彼女から生を与えられた」


「彼女は、アリカは何が目的なんだ?」


真実に近づくことがこんなにも恐ろしいのであれば、わたしはこの依頼を請けるべきではなかった。心底そう思った。


「レディは段階的に義体を変え、最後に行き着いたのがスクラップヤードに眠っていたA+世代のボディでした。彼女はそこでさらなる禁忌を犯すわけです」


もう、ただただUの話を聞くことしかできない。できることなら外部センサーをすべてシャットアウトしたい気分だった。それでも僅かな好奇心が彼の話を聞き続ける。


「A+世代のボディが特殊構造なのはご存じの通りでしょう。

 中枢部は腹部に格納され、分厚い装甲で守られています。

 彼女はそのうえで頭部に脳移植を施したわけです」


「つまり、ひとつのボディに2つの頭脳……」


嫌だ、考えたくない。

その先を推理したくはない。

わたしはその場から身動きもとれず、言葉の暴力を浴び続けることになる。


「レディはそこで“”と表現しました。

 戦闘アンドロイドの精神と、人間とが混線したのでしょうか?

 ちなみにレディはその別人格のことをと呼んでいましたよ」


「そのがイクイリビリウム派の連中を?」


「おそらく。現場に残した亞の字は彼女の存在意義そのものでしょう。

 僕が知っていること、そして知りうることは以上です」



その時になって、ようやく思い出したことがある。

アリカは初めて会ったときから左手が壊れていた。



「左手のアタッチメントは乱暴に扱うとすぐ壊れるから気をつけなよ、

 アーメン」



ジェフ……。

お前はあの時から何かに気づいていたのか?


標的と対峙して、左手を突き出せばちょうど被害者の右下腹部に刺さる……。

そういうことなのか?


わたしがアリカとシャロンを2人きりにしたからか?

そういうことなのか??




「名探偵エレク!

 今、ニュースで最後の仕上げが映っているようだぞ……」


Uがテレビジョンを操作すると、そこにはアニス・メイ・ウォン刺殺の速報が映し出されていた。





つづく

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