15章:書いた覚えのない供述

シャロンの殺害という衝撃的な速報にわたしはすっかり思考を囚われてしまい、アリカから続報を聞き出すよりも先にタクシーに飛び乗った。



事務所に急行したわたしは、警察機関の捜査員をかき分けて進む。


「すみません、関係者です。通してください!」


幾人かの捜査官に阻まれもしたが、意外な人物がそこに現れた。

容疑者の1人でもあったアニスである。


「遅いわよ、無能な探偵さん」


「……なぜ君がここに?」


「まだ分からない? 私のメールでアンタはここに来たんでしょ?」


イクイリビリウムを名乗る謎の人物、それがこのアニス・メイ・ウォンだとでもいうのか。状況が整理できないまま、アニスに連れられて事件現場である客間へと入る。


(シャロン……!)


彼女は無残な姿で横たわり、腹部から大量に出血していた。即死だろう。

そして壁にはこれまでと同じく十字架が描かれていた。



「アンタの調査報告書は読んだわ。予想通り、トンデモない無能探偵ね」


アニスはそう吐き捨てるとわたしに紙の束を投げ、睨みつけた。


「捜索する側なら狙われないと踏んでいたのに、“勤勉”も脇が甘すぎるのよ」


……勤勉?

今、彼女はそう言ったのか?


「“勤勉”って、どういうことだ。シャロンのことを言っているのか?」


「あら、オリコーさん。そうよ、シャロンは“勤勉”、すると私は誰かしら?」




「イクイリビリウム派、最後の1人……“純潔”!?」


自らを容疑者とし、警察機構を隠れ蓑とした、イクイリビリウム派の幹部。それがアニスの正体であった。なにより、シャロン自身もイクイリビリウム派の中枢であったのだ。



わたしは何を信じてよいのか分からなくなり、失意のままマンションへと逃げ帰ることになる。



帰路、ふとアニスに投げつけられた報告書のことを想い出し、地下鉄の車内でファイルを開いた。するとどういうことだろう? 報告書にはわたしが書いた覚えのない供述で溢れ返っていたのだ。


混乱する記憶。


「……つまり、貴方の調査によると5人全員にそれ相応の容疑がかけられていると」


「!?

 どこをどう読んだらそういう結論になるんだ?」


シャロンとのやり取りがフラッシュバックする。

彼女はこの報告書を読んで、そう言った。そういうことなのだろうか?


だとしたら……。

この内容はどこで書き換えられたのか?



改めて記載内容を最初から確認すると、奇妙な文字を見つける。

これは……そう、『カンジ』だ。第一容疑者であるUに関する記述にこうあった。


≪身体のほとんどを機械化した人間であり、

 その境遇から『アジン(亜人)』と呼ばれ迫害≫


ア・ジ・ン。


まただ。あの亞の漢字にも似た文様がここにもあった。

これは十字架ではなく、この『カンジ』がキーワードなのかもしれない。



再度、データベースに残した現場の写真をスキャンする。

犯行現場に書きなぐられた十字架のマークには、よく見ると上下にうっすらと横棒が描かれていたのだ。



確信を得た。

これは十字架ではなく、であることを。





つづく

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