13章:AI寿命法に基づき

自宅へと戻ったわたしは、5人分のレポートの作成に取り掛かった。


アニスのことはどこまで書くべきだろうか?


シャロンを試すためにも、そこは意図して伏せるべきだと考えたわたしは、警告を受けて何も聞き出せなかったとだけ書き記し、早々に切り上げた。


どっと疲れが押し寄せたわたしは、シャロン宛てのメールを送信した直後に深い眠りについたのだった。



翌朝。

珍しくアリカから起こされてしまった。


「大事な報告に行くんでしょ? ホラ、早く起きないと!」


しまった、寝過ごしたか。

睡眠は動物だけの特権ではない。我々もまた回路を冷やすために眠るのだ。



シャロンからの返信メールには報告書がまとまり次第事務所へ来るようにとだけ記されてあった。わたしは身支度を済ませると、机の上の封筒をカバンに詰め込みながら靴を履いた。するとさも当然のようにアリカも靴を履きはじめる。


「アリカ、今日の相手はシャロンだから……」


ここまで言って、ふと我に返る。


シャロンは……わたしに何かを隠している。

A+世代のアリカを連れていくことで、彼女に揺さぶりをかけられるかもしれない。


「……よし、一緒に行こうか」


「そう言ってくれると思ったわ」



地下鉄に乗り込んだ我々は、周囲に人間がいないことを確認したうえで、アリカに話の続きを聞こうとした。もうそろそろ、いくつかの質問に答えてくれてもいいのではないだろうか。



「やっと君に聞けそうなタイミングだから、濁さずに答えて欲しい。

 君はどこから来て、あの嵐の晩に何をしていたんだい?」


「……」


「年齢については触れないよ。

 でも、今聞いたの2つの質問については答えてくれ」



アリカの沈黙は3駅ほど続いた。

わたしは質問を被せず、辛抱強く待つ。


「名前はアリカ。どこで作られたかも分からない。

 気がついたらエレクに保護されていたってことだけ。

 それしか覚えていないの……」


「なるほど……。

 そこまできたらあの発言の真意も教えてほしい。

 わたしより年上かも、ってどういう意味だい?」


今なら答えてくれるかもしれない。エレクは僅かな望みを彼女の言葉に託した。


「……私のいちばん古い記憶は、戦時中のものだけが断片的にあるの」


「戦争は50年以上も昔の話だ。

 我々、アンドロイドはAI寿に基づき50年で機能停止してしまうはずだよ」


「そうらしいわね。

 エレクの部屋で得たデータでアンドロイドのレギュレーションを知ったわ」



彼女はA+世代の生き残りなのだろうか。

運良く機能停止を免れた、戦闘用義体……。


だとすると50年もの長い時間、人の目から逃れ続けていたことは不可能に近い。そのうえで考えられるものがあるとすれば、スクラップヤードに送られたA+世代が無傷のまま時を経て、何かのきっかけで再起動したということくらいだろう。


アリカとの対話はますます謎を呼んだが、いったんはシャロンのことに集中することにした。目的の駅に着いた我々はシャロンの事務所へと向かう。





つづく

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