9章:7人の長
再びモービルに乗って3時間の旅が始まる。
わたしは十字架を背負い数々の暴力事件を起こしている格闘家が、祖国愛に溢れたファッションだというオチに落胆していた。そして、次は誰の話を聞きに行こうかとファイルを漁っている時、シャロンからの通話が入る。
「ああ、エレク。今日このあと予定は大丈夫かしら?
……イクイリビリウムの副長があなたに会いたいそうよ」
「急にどうして??」
「あなたの報告書を読んだからでしょ。とにかく、詳細はメールで送るわ」
このタイミングで向こうから接触があるとは……。
わたしはメールを確認し、指定された住所をモービルに入力してみたが、ナビ情報では架空座標としか表示されない。改めてメールをよく読むと、身元保全のために防壁を張っていることが分かった。自動操縦を解除し、久しぶりにハンドルを握る。
「なるほどね、そのエライ人たちは住所がバレたくないんだ」
「……なぁ、アリカ。君は途中で降りてもらうよ。
理由はもう分かるよね」
「私が戦闘義体だから……?」
アリカがトーンダウンしていく。とはいえ、事件の保護対象者のもとにA+世代を連れて行くのは反逆行為そのものだ。わたしはイクイリビリウム派ではないが、それくらいの礼節とルールを守る意思はある。とはいえ、街中に独りで彼女を残すわけにもいかず、結局目的地の近くにモービルを停め、車内に残ってもらうことにしたのだ。
「お招きにあずかりました、エレクです」
「ようこそ、イクイリビリウムの館に。私が副長の“節制”と申します」
前評判通り、といってはなんだが館内の視線がわたしに刺さるのを感じる。AIとの『平等』を掲げるイクイリビリウムとはいえ、根っこでは我々を快く思っていない。その証拠にこの宗教施設にはアンドロイドは1機も存在しないのだ。
「まずは報告書についてのお礼を。
“勤勉”から話は聞いています。危険な調査だったのでしょう?」
彼らの云う「節制」や「勤勉」といったワードは、おそらく組織内のポジションのことだろうと認識した。イクイリビリウムには代表を含め、7人の長がいるとされている。それが節制、純潔、慈悲、忍耐、勤勉、感謝、謙虚であり、彼らの教典でもあるのだ。もちろん、個人名を指してないあたりが、彼らの不透明性そのものなのだが……。
「して、貴方の見解は?」
「現場に残された十字架の文様が、引き続き重要な手がかりになると思われます」
「十字架……。
慈悲も、忍耐も、感謝も、謙虚も皆、その十字架のもとで殺されました。
次は私かもしれないのです。一刻も早く犯人を……!!」
「……無礼を承知でお聞きします。犯人に心当たりはありますか?」
それを口にした刹那、衛兵たちを含め部屋の空気が変わったのを感じた。だが、わずかでも状況を打破する手がかりが欲しい。わたしはさらなる領域に踏み込んだ。
「心当たりなどありません。
ただ、殺された4人はいずれも右下腹部のひと刺しが致命傷となっております。
全員が共通して、同じ殺され方をしている。分かっているのはそれだけです」
「……そうですか。
ありがとうございました」
わたしはシャロンに見せられた写真データを展開した。あの時は凄惨な現場に驚いただけだったが、確かによく分析するとどの写真も腹部からの出血が目立っていた。そして遺体はどれもうつ伏せで倒れているという共通点もあった。
「ここの住所を記したメールは遠隔で破棄させてもらいましたよ。
では貴方のご健闘を祈ります」
“節制”の補佐官らしき人物に見送られ、わたしは館をあとにした。そして考え事をしながらモービルまで戻ると、アリカは退屈そうに車内でファイルを読んでいたのだった。
「何か収獲はあった?」
「いや、実に不愉快なところだったよ。偏った人間しかいなかった」
さて、次はどうするべきか。
ナビの設定を変えようとしたとき、ファイルをめくりながらアリカがまた持論を展開しはじめる。
「十字架、犯罪歴、元囚人の……しかもギャングだって。
次はこのファギーに決まりだね!」
手がかりがない以上、今はこの有能な助手に頼るしかなさそうだ。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます