7章:イクイリビリウム派

帰宅後、わたしは書斎でどう報告書をまとめようか悩んでいた。

シャロンは何かを隠しているし、ジェフへの疑念も沸いてしまった。


そもそもUを信用してもいいのだろうか?


イクイリビリウム……。

改めてイクイリビリウム派について調べたところ、いくつか分かったことがある。


ひとつ、アンドロイドの復権を掲げる宗教じみた「人間の集団」であること。


ふたつ、代表者ならびに幹部連中はいわゆる「人間寄りの保守層」であること。


みっつ、歯触りの良い「平等」をスローガンに推し進める彼らを、人間はおろかアンドロイド側も信用していないこと。



これはわたし個人の見解だが、「イクイリビリウム派」の活動自体が支持者獲得のためのパフォーマンスであるようにも思える。事実、彼らの活動で我々の暮らしや待遇が少しでも改善したかと問われれば、到底そんなことはない。


つまり今回の事件で殺害されたのは人間だが、犯人は「アンドロイドを憎む人間」と「人間を憎むアンドロイド」の両方の可能性がある……。

これには依頼主のシャロンも同意見だった。


しかし……。


わたしはジェフとUの無難なレポートをまとめ、シャロンに報告の日時を取り付けると、その日は相当疲れていたのか、そのまま眠ってしまった。



翌朝。

わたしがリビングに行くとアリカが自室ではなくソファーで眠っていた。

さすがにシャロンの所に彼女を同席させるわけにはいかなかったので、机の上の封筒をカバンに入れると、アリカが目を覚まさないうちに出掛けることにした。



シャロンはれっきとした人間である。

(未成年タイプとはいえ)素性不明で、かつA+世代のアンドロイドを連れて行った日にはわたしが契約解除、つまり解雇されかねないと判断したためだ。



いつもの道を通り、いつもの作法で待つ。

シャロンの事務所に到着したわたしは、言いたい事をグッと堪えてまずは報告書に目を通してもらうことにした。



「……なるほどね、現時点での2人に対する評価は分かったわ」


「いくつか質問があるんだが」


わたしが切り出そうとしたとき、彼女は分かっていますよと言わんばかりに1枚の写真を机に置いた。そう、先日Uに見せられたあの事件のものだった。


「捜査の雑念ノイズになるかも、と思って伏せていたんだけど……。

 ここまできたら見せておいたほうがいいわね」


出鼻をくじかれしばし呆気に囚われたものの、Uの見せた写真よりも高画質なそれは質問する気すら失せるほど鮮明に、そして生々しいほどの現場が写っていた。


「もう2~3枚あるけど、見る? 全部に十字架が残されているの」


「宗教絡みと見ていいのか……。いや、まだ断定はできないな」


わたしは自身の記録用に計4枚の写真データを取り込むと、彼女に本題をぶつけた。


「確認したいんだが、まだわたしに何か隠していることはないかい?」


「隠し事? そんなものはないわ。

 貴方こそ何か私に隠していることがあったりするんじゃない?

 別にいいけどね……」



人間の勘の鋭さについては予てより驚嘆すべきものがあったが、この日ほどになったことはない。なるほど、Uの表情システムの削除はこういった事態に備えたものか。





つづく

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