5章:すぐ壊れるから

「まずはジェフさんの所へ行くんでしょう?」


調査依頼の封筒を盗み見たアリカは、いたずらっぽく笑うと身支度を始めた。わたしは彼女が一緒ならば荒事に発展しないだろうという思惑があり、同行を許すことにしたのだ。


「まだ左手の調子も完全じゃないんだから、無理をしないように」


正直なところわたしはジェフへの事情調査よりも、彼女の様子が気になって仕方がなかった。というのも保護したあの晩、アリカは完全に機能を停止しかけていたのだ。それこそ精密検査が必要な状況でもあり、半月ほど様子を見たくらいでは気が緩むことはない。



「ジェフさんってどんな人?」


「彼は……そうだな、人間で例えるなら変わり者ってヤツだ。

 でもいいヤツだよ」


封筒の中身を見られたということは、彼が『制御チップ』を埋めていない可能性があるという記述も読んだのだろう。容疑者とはいえ、アリカには安心感を与えるためにわたしは蛇足っぽいフォローを入れた。



彼の住まいは8ブロックほど離れた荒廃区にある。


昔、人間と大きなトラブルを起こしたこともあってか、人が立ち寄らない区域でひっそりと暮らしているのだ。


わたしは過去に仕事で彼と組んだこともあって、以来旧知の仲……とはいかないものの、それ相応の関係性を築けていると考えている。だからこそこの仕事を請けたわけでもあり、真っ先に彼のもとへと赴いたという次第だ。



「ジェフ、わたしだ。エレクだ」


防犯の「ぼ」の字もないバラックのポーチに立ち、わたしはジェフに呼びかけた。

しばらくすると内側からドアを開錠する音がしたが、彼は出てこなかった。そしてノブを掴んだ瞬間、屋根から身を乗り出したジェフがこう言った。


「横にいるお嬢さんはどちら様かい?」


「いつものことながら揶揄からかうのが好きだな、ジェフ。

 この子は助手だ。アリカ、ジェフに挨拶を」


「助手? てことは仕事か。オーマイガッ!

 ……なるほど、話は読めてきたぞ。まぁ入ってくれ、ウェールカム」



客間……と呼んでいいものか戸惑う室内には、バラバラの義肢が無造作に積んであった。相変わらず彼の生業は全くもって想像できないが、容疑者に挙がってしまうほどのことをしているのだと改めて痛感した。アリカはというとこの異様な光景にも関わらず平然としている。



「今回は手錠と拘束具は持ってきてないのか?」


「逆だよ、ジェフ。わたしは君の潔白を証明しに来ただけだ」


まだ何も言ってないのにも関わらず、ジェフは本質を突いてきた。

ということはこちらも正直に伝えるしかない。


「イクイリビリウムの件だろ? 俺は立派な容疑者ってわけだ、ハハ」


「いくつか質問をさせてくれ」


「それはそうと、お隣のお嬢さん……。

 左手のアタッチメントは乱暴に扱うとすぐ壊れるから気をつけなよ、

 アーメン」


「……なぁ、ジェフ、落ち着いて話を聞いて欲しいんだ」


わたしはジェフの悪態に終始呆れながらも、こうして事情聴取初日を終えたのだった。





つづく

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