3章:平和な世の中で銃を
帰途、わたしはある“頼まれごと”を思い出して義肢ショップに立ち寄った。
同居人が左手関節の調子が悪いと言って代替パーツを欲しがっていたためだ。
「ひとつ聞きたいんですが、A+世代の左手パーツは置いていますか?」
「A+とは、これまた随分と古い規格だな。
互換品なら……あの棚の向こう側にいくつかあったはずだ」
指示された棚を探すと、辛うじて使えそうな古びたパーツがあった。わたしは念には念を入れ同規格の他部位のスペアもまとめて購入することにした。
「骨董品マニア……には見えねぇな。
アンタ、訳ありって感じがするぜ、ヘヘッ」
「いえ、ただのコレクションですよ。……ありがとう、助かりました」
数箱のダンボールを抱えて歩くわたしが、通行人の目にどのように映ったかは知らないが、ともかく目的は達成。早く吉報を知らせたかったこともあり、わたしはやや急ぎ足でマンションへと帰宅した。
「ただいま。
……アリカ、もう起きても平気?」
玄関のドアを開け、同居人の様子を伺う。
「大丈夫、ちょっとまだ不安定だけど……」
「よかった。義肢パーツだけど、いくつか君の規格に合うものが見つかったよ」
わたしはダンボールを机の上に置き、アリカに箱の中身を見せてこう言うと、彼女は待っていましたと言わんばかりに箱を漁り始めた。
「……あのさ、先日の質問だけど今なら聞いてもいいかい?」
「……」
「どうしてアリカは戦時中の義体を使っているのか、どうしても気になってさ。
今日はショップの店員に怪しまれるだけで済んだけど……。
次はどうなるか分からないから、知っておいたほうがいいのかもしれない」
同居人と表現したものの、実際にアリカと出会ったのは半月ほど前であり、人間的な表現をすると同種であるアンドロイドをわたしが『保護した』という表現が適切だろう。嵐の晩、仕事帰りに見かけた起動不全のアンドロイド。それが彼女だった。
わたしは見て見ぬふりもできたが、どこか引っかかりを覚えて保護に乗り出した。おまけに時代錯誤のA+世代の義体という点。これはかつて人間とアンドロイドが全面衝突して戦争状態に陥った際に作られた、純粋な戦闘規格だ。平和な世の中で銃を買い求めるような危険な行為を、今日のわたしは進んで行ったことになる。
「そうね、確かに危ないお願いだったかも…… ごめんなさい」
「だと思って、同じ規格のスペアパーツをまとめて買っておいたよ。
当面は心配いらない」
努めて明るく振舞ったつもりだったが、やはり人間のようには上手くいかなかった。アリカは少し悲しそうな表情でちょっとだけ笑った。
つづく
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