第1章:魔具を巡る旅の始まり3

「それは…!」


「これは魔具のひとつ『禍津球まがつだま』じゃ。契約者の魂と魔力の一部を封印し、自身の肉体や魔力性質に近しい人物が近づいたら反応し、近づいた者の肉体を乗っ取る魔具じゃ」

そう説明しながら、少女はゆっくりとサシャに近づき、冷たい視線を彼に向けた。


「よし。決めた。お主の体を貸せ。そして、ワシの目的達成の手伝いをせよ。そうすれば殺さずに生かしてやる」

少女は、先ほどまでの冷酷な表情から一変、にこやかな笑みを浮かべてサシャに話しかけた。


「貸す?目的?」

あまりにも唐突な提案に、サシャは頭の中が真っ白になった。


「簡単な話じゃ。お主の肉体に住まわせろってことじゃ。そして、一緒に世界中の魔具を集めるんじゃ」

少女は、満面の笑みを浮かべながら、まるで友人を誘うかのように言った。


「魔具集め?…まぁ、僕も魔具を集めてるけども…」

予想外の申し出に、サシャの思考は完全に停止していた。


「なんと!それなら話は早いのぉ!」

少女は、まるで旧知の仲であるかのように、サシャの肩を軽く叩いた。


「そう言われても…肉体を貸すって」

サシャは困惑の色を隠せないまま、必死に考えを巡らせた。

生き残るためには、彼女の提案を受け入れるしかないのかもしれないと。


「なぁに。ワシが外に出たい時に、その肉体を貸してくれるだけでよい」

少女の笑顔は明るいものの、その奥には底知れない何かを感じさせる。

だが、サシャには他に選択肢は残されていなかった。


「分かった…」

サシャは、未来への漠然とした不安を抱きながら、その奇妙な提案を受け入れた。


「よし!決まりじゃ!ワシの名はトルティヤじゃ!お主、名前は?一応聞いといてやる」

トルティヤと名乗った少女は、興味なさそうな素振りでサシャに尋ねた。


「一応って…サシャだよ。冒険をしているんだ」

疲労の色を滲ませながら、サシャは自分の名前を告げた。


「サシャじゃな。これでもワシは、かつて高名な魔導師じゃった。つまり、お主は今日から無敵じゃ。ありがたく思うんじゃな!」

つい先ほどまで自分の肉体を奪おうとしていた相手の、あまりにも身勝手な言い草に、サシャは言葉を失い、ただ呆然とするしかなかった。


「なんじゃその顔は。もっと喜ばんか!…まぁ、よい」

トルティヤがそう呟くと、周囲の景色が波紋のように揺らぎ、一瞬にして元の祭壇の部屋へと戻った。


「うわっ!」

サシャは、冷たい石の床に立っているのを感じた。

目の前にあった赤く光る魔具『禍津球まがつだま』は、まるで役目を終えたかのように、粉々に砕け散っていた。


「お主はワシの代わりに、とにかく歩くのじゃ。そして、魔具を探し続けよ。じゃないと…この肉体を乗っ取るのじゃ」

トルティヤは念を押すように、サシャへそう言い放つ。

それに対して、サシャは静かに頷くしかなかった。


「(これからどうなるんだろう)」

サシャは、トルティヤの半ば強引な提案を受け入れたものの、今後の展開に対する不安で胸がいっぱいだった。


「…結局、魔具は収穫できず…か」

古びた館を後にしたサシャは、気を取り直して近くの街である、ガイエンを目指すことにした。


夕焼けに染まる荒涼とした大地を、サシャは一人歩き続けた。

乾いた風が吹き抜け、わずかに枯れ草の匂いが鼻腔をくすぐる。


「…夜には着くかな」

そんな心細い思いを抱いていると、前方の岩陰から、数人の男たちが姿を現した。

彼らの顔つきは険しく、中には鋭い刃物を腰に差していたり、背中に弓を背負っていたりする者もいる。


「(げっ!盗賊だ…)」

サシャは、思わず足を止めて警戒した。


「おい、坊主、そのマント、なかなか良いものじゃないか。俺たちに譲ってくれ」

一人の男が、ニヤついた笑みを浮かべてサシャに言った。


「素直に渡せば、痛い目を見なくて済むぞ?」

別の男が、脅すように言葉を重ねる。


「こりゃ良いカモだ」

さらに別の男が、下卑た笑い声を上げた。

盗賊たちの目は、サシャが身につけている、深い緑色のマントに釘付けになっているようだ。


「(このマントだけはダメだ…ロイ叔父さんが残していった、大切なものだから)」

サシャは心の中で呟いた。


ロイはサシャの叔父であり、共に冒険者として旅をしていた。

しかし、半年ほど前、このマントといくつかの道具、そして双剣を残して、姿を消してしまったのだ。


「(くっ…まずい!)」

多勢に無勢。

サシャは、できるだけ争いを避け、逃げることを考えた。

しかし、その意図を察したかのように、精神世界にいるトルティヤが冷たい声で囁いた。


「賊風情が…邪魔をするなら、消せばよかろう」

その声には、人間に対する一切の情は感じられず、ただ冷酷なまでの殺意が込められていた。


「いや、けどたかが盗賊くらい…逃げればいいんじゃ?」

サシャは、人を殺すことに強い抵抗を感じ、躊躇した。

しかし、トルティヤは有無を言わさぬ強い口調で続けた。


「せっかくじゃ。わしの力を見せてやろう。ほれ、早く代われ」

トルティヤがサシャの肩を叩く。


次の瞬間、サシャの意識は深い闇に落ち、代わりにトルティヤの人格が表へと現れた。

サシャの黒髪は瞬く間に白銀に変わり、瞳の色は燃えるような赤色に染まった。

その顔つきも、どこか冷酷で自信に満ちたものへと変化した。


「おいおい!無視かよ!いい度胸だな!」


「じゃ、そのマントと有り金を置いてけ!」

盗賊たちは、サシャの人格が変わったことに全く気づくことなく、粗野な言葉を投げつけ、中には炎の魔法を放ったり、鋭い刀を振り上げたりする者もいた。


燃え盛る炎の塊がトルティヤに向かって飛来し、鋭い刃が目前に迫る。


※サシャの運命やいかに!?

1-4へ続く!

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