第1章:魔具を巡る旅の始まり2

「え?精神世界…?」

サシャの思考は混乱し、状況を理解することができなかった。


「まぁそんなことはどうでもよい…お主は選ばれたのじゃ」

少女は淡々と口を開く。


「選ばれた?」

言葉の真意が分からずにいると少女が口を開く。


「単刀直入に言う…お主の肉体を貰い受けるのじゃ」

少女の口から発せられた衝撃的な言葉に、サシャは全身の血の気が引くような戦慄を覚えた。


「え…?何を言って…?」

サシャが言葉を失い、呆然と立ち尽くしている間に、少女は流れるような美しい声で、魔法を唱えた。


「…影魔法-影縫いかげぬい-」

すると、少女の足元から伸び出した黒い影が、生き物のようにうねりながらサシャを拘束しようとする。

しかし、サシャは本能的に危険を察知し、咄嗟にその場を跳び退いた。


「っ…!なんだよいきなり!」

サシャは腰に差した二本の剣を抜き、身構えた。

双剣は彼の武器であり、相棒だ。


「ほう。双剣とな。面白いものを使うのぉ。ほれ。曲芸を見せてみよ」

少女は、嘲弄の色を滲ませた笑みを浮かべ、サシャを挑発した。


「うるさい!」

サシャは怒りの声を上げ、双剣を構えて少女に向かって素早く斬りかかった。

しかし、少女は微動だにせず、紙一重でその攻撃をかわした。


「ふむ…素人じゃな。攻撃が直線的じゃ」

少女はサシャの剣を容易く見切り、次の瞬間には右手に青白い光が集まり始めた。


「(速いっ!)」

サシャは迫りくる攻撃を避けようとするが、体勢が崩れて上手く動けない。


「受けよ…雷魔法-聖者の鉄槌せいじゃのてっつい-」

少女の手のひらから放たれた雷の拳が、目にも止まらぬ速さでサシャの無防備な体を捉えた。

鋭い電撃が全身を駆け巡り、骨の髄まで痺れるような痛みが走る。


「ぐわぁぁ」

サシャは悲鳴を上げ、激しい衝撃とともに吹き飛ばされ、床の上に叩きつけられた。


「くそっ…!」

立ち上がろうとするが、雷魔法の強烈な影響で体が痺れ、思うように力が入らない。

手足が痙攣し、全身が鉛のように重い。


「分かったじゃろ?お主じゃワシに逆立ちしても敵わん。さぁ、大人しく肉体を明け渡すのじゃ」

少女はゆっくりとサシャに近づき、見下ろすように言った。

だが、サシャはその言葉に強く首を横に振った。


「…断る」

苦痛に歪む顔を上げ、サシャは鋭い眼差しで少女を睨みつけた。


「(絶対に屈しない!)」

サシャは、痺れる体に力を込めて、再び立ち上がろうと歯を食いしばった。


「ほう。それがお主の答えか。よく…分かったぞ。では、その精神を殺して肉体を奪い取るまでじゃ…」

そう言い放つと、少女は右手にさらに強大な魔力を集中させ始めた。

背中に生えた漆黒の翼が、妖しい光を放ち、周囲の空気を禍々しく染め上げる。


「くそっ…体がしびれて思うように動けない。なんて強力な魔法なんだ」

サシャは、全身を襲う痺れと痛みに耐えながら、身動き一つ取れずにいた。


「これで終いじゃ。無限魔法-羅刹の炎らせつのほのお-」

少女が低い声で詠唱すると、黒い炎の奔流がサシャに向かって放たれた。

それは、全てを焼き尽くすような、圧倒的な熱量を持った黒炎だった。


「くそっ!こんなところで…死にたくない!」

絶体絶命の状況に、サシャは無意識のうちに右手を前に突き出した。

すると、黒炎がその手に触れた瞬間、まるで何かに吸収されたかのように、跡形もなく消え去ったのだ。


「な…なんじゃと?」

自身の放った強力な魔法が、いとも簡単に打ち消されたことに、少女は信じられないといった表情で目を見開いた。


「へ?」

一方のサシャも、一体何が起こったのか理解できずにいた。

自分の魔法は、これまで結界や魔法でできた鍵を外すことはできても、魔法による直接的な攻撃を無力化できたことなど一度もなかったからだ。


「なんで…?」

サシャは、目の前の信じがたい光景に、ただただ呆然と立ち尽くすしかなかった。


「ほう…」

少女は、驚愕の表情から一転、興味深そうな視線をサシャに向けた。


「お主。何故ワシの力の一部を…」

妖しく光っていた翼は、元の静かな黒い翼へと戻った。


「いや、分からない…けど今までこんなこと」

サシャは、突然の出来事に混乱し、言葉に詰まった。


「もしや…魔具これの影響かの」

少女の手には、いつの間にか赤く光る球体の魔具が握られていた。

それは、先ほど祭壇の上に置かれていたものと同じものだった。


※1-3へ続く!

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