第2話 カゲロウが選んだ世界

 カゲロウが光の世界へ足を踏み入れたとき、そこはまるで色そのものが息をしているような場所でした。

 草は風に揺れるたびに緑の音を奏で、空は朝焼けのようにやわらかな光を広げ、

 子どもたちの笑い声は、小川のせせらぎみたいにきらきらと弾けていました。


 カゲロウは胸の奥がふわりと温かくなるのを感じました。

「ここが、ぼくが選んだ世界なんだ」

 そう思うと、体の奥から小さな喜びが湧き上がってきました。

 けれど、すぐに気づきました。

 この世界の大人たちは、誰ひとりとしてカゲロウの姿を見つけられません。

 彼らの影は重く、揺らぎが少なく、カゲロウのような“半分の存在”には気づけないのです。

 ただ、子どもたちだけは違いました。

 彼らの影は軽く、風に揺れる木の葉のように自由で、

 カゲロウの気配を見つけると、そっと微笑みかけてくれました。


 それでも――


 カゲロウの胸には、ひとしずくの寂しさが残りました。

 光の世界に来られたのに、自分の影だけが銀色の海に取り残されたままだからです。

 子どもたちの影をひとかけらだけ分けてもらうと、カゲロウの胸の奥にあった寂しさは、ほんの少しだけ和らぎました。


 けれど、そのたびに、カゲロウの体はすこしずつ薄くなっていきました。

 まるで、光の世界から遠ざかっていくように。


 影は、銀色の海――虚世界のかけら。


 それを食べるということは、光の世界にいながら、ほんの少しだけ虚世界へ近づいてしまうということでした。

 それでもカゲロウは、影を食べることをやめられませんでした。

 それは、置いてきてしまった“自分の半分”を埋めようとする、どうしようもない本能のようなものだったのです。

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