カゲロウの存在

イソトマ

第1話 カゲロウの誕生

 気がついたとき、カゲロウはそこに立っていました。


 さざ波が聞こえる場所。


 押しては引く、幾星霜いくせいそうにも流れる音。


 けれど、ひとつとして同じ音はありませんでした。


 それは、何もなかった場所に、初めて"揺らぎ"が生まれた瞬間でした。

 目の前には、二つの果てしない海が広がっていました。


 ひとつは、朝日を浴びたように暖かく、すべてを包み込む「黄金の光」に満ちた世界。 触れなくても、そこにあるだけで、胸の奥がふわりと温かくなるようでした。


 もうひとつは、凍てつく星空のように冷たく、けれど心の奥まで見透かすような「銀色の輝き」を湛えた世界。 音も感情も吸い込んでしまいそうなほど、静かで、透明でした。


 どちらの世界も、言葉にできないほど美しく、カゲロウの内側で、静かに呼び合っていました。

 カゲロウは、生まれて初めて「考える」ということを始めました。


 どちらへ進むべきか。

 自分はどこへ行きたいのか。


 やがて、理由も分からないまま、カゲロウはそっと、片方の手を伸ばしました。

 彼は、命のぬくもりが待つ、光の世界を選んだのです。


 それが何を意味するのか、

 その時のカゲロウは、まだ知りませんでした。

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