第5話
神谷くんは2年目も甲子園に出た。いつの間にかエースピッチャーになっていた。さらにそのかっこよさから「王子」なんてニックネームがついていて、彼の周りには多くの女性ファンがついていた。
「神谷さんすっげー有名だね、ほんとにねーちゃんと同じクラスだったの?」
弟のひと言がぐさりと刺さる。私はあいまいに笑いながらテレビに目をやった。
大画面に映る神谷くん。「王子」「エース」「期待の2年生」、彼を称賛するいろんな言葉に目眩がしてきた。
あのひとは本当に私と同じ教室にいたのだろうか。休日の朝にすれ違って話をしたのだろうか。初詣に行ったのって、私の夢だったのかもしれない。
神谷くんの高校は順調に勝ち上がっている。去年と比べて球種が増え、メンタル面も落ち着いてきた神谷くん。私が知らないところでどれだけの練習を積み重ねてきたんだろう。その気持ちは神谷くんや、神谷くんと同じ土俵に立つ球児にしかわからない。
「……遠いなぁ」
「は?何が?」
弟の言葉に苦笑いを返す。中3の春に私の前の席に座って話しかけてきた神谷くんは、もう随分と遠いところに立っている。
「やっぱ神谷かっこいいよねー!顔面偏差値高すぎる」
「それでエースってやばい、絶対付き合いたいー!!」
「でも神谷クン彼女作んないんだって。誰が告ってもフラれるらしいよ」
この子たち、神谷くんと同じ高校だ。制服姿からすぐにわかった。キャッキャとはしゃぐ彼女たちの後ろに並ぶ私はどう見ても場違いで、お手洗いに来ただけなのになんだかすごく恥ずかしい。
客席の一部は彼女たちのような、神谷くんの高校の生徒で埋め尽くされている。チアガールに吹奏楽部、同じ野球部員であろう応援団、多くの人が神谷くんたちを応援に来ていた。中には今目の前に並ぶ彼女たちのような一般の生徒らしき子たちもいる。
きっと神谷くんと釣り合う子はああいう可愛い子たちなんだろうな。それかマネージャーとか。神谷くんのことをよく知っていて、神谷くんを支える人。私にできることなんて、甲子園までの交通費をバイトで稼ぐくらい。同年代の女子たちがコスメや彼氏とのデート代に使う分を、私は甲子園までの切符に注ぐ。だってそうでもしないと、私ごときが神谷くんに会えるわけがないんだから。
神谷くんがくれた帽子のつばをぎゅっと握る。これがなんだというのだろう。きっと神谷くんは気まぐれでこれを私にくれただけだ。本当は同じ空間にいるのですら間違っているような、遠い存在の人なんだ。
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