第2話

「何であんたが此処にいる?」


 屋敷に入っての第一声だった。剣城はメイドの圧を振り切ってでも帰るべきだったと今更悔いた。







 広い屋敷の中を歩き続けること数分後、辿り着いたのは一枚の扉の前。開けなくても剣城は手に取るように分かった。


「失礼します」


 止める間もなくメイドが扉をノックする。中から返事が返ってくると、ドアノブが回された。


 部屋の中を見て、答え合わせが終わる。己の直感が正しかった、と理解した。


 そこには二人の男性が居た。


「おお、来てくれたか! 君が凄腕の風術師くんかね?」


 一人は剣城の姿を視界に入れた瞬間、すぐにソファーから立ち上がり、握手を求めてきた男。今回の依頼人の竹中何某だ。


 スーツの上からでも分かる筋肉の塊のような体型は服を着ているというよりも、服で押さえつけられている印象を抱かせる。


「ええ、まぁ……」


 依頼人に曖昧に返事を返しつつ、剣城の視線はもう一人の人物へと向く。意識はとっくに彼に割いており、何時如何なる先制を受けようとも即座に対応できる程度には警戒心を高める。


 当の本人は剣城の警戒を知ってか知らずか、薄ら笑いを浮かべていた。


「や」


 右手をあげ、にこやかに挨拶をしてくる男。依頼人と同年代、もしくは少し歳上には見えないほどに若々しく見える。剣城が歳を重ねた未来の姿に近い。


 どちらも精悍な顔立ちながら、剣城は視線を鋭くさせているせいでガラの悪い印象だが、彼の面影がある男は締まりのない表情で何処か緊張感に欠けた印象がある。


「何であんたが此処にいる?」


 剣城は低い声で訊ねる。相手への敵意を隠そうともしていない。依頼人も二人の間に何か因縁があることはすぐに察した。


「なんだ、知り合いなのかね?」

「ええ」

「そうですね」


 剣城が先に応え、男も後に続く。彼はこうも補足した。


「風術師になったんだね、剣城。いやはや、驚きだよ────流石、我が息子」


 その言葉にすぐ反応したのは依頼人だった。


「おお、君の息子だったのか! それならば安心できるな!」

「そうですね」


 表情の変化は一瞬だったが、剣城は見逃さなかった。人を人と思わない、路傍の石でも見下ろすような無機質な眼差し。


 かつて彼を苦しめたものだ。決して実の息子に向けるものではない。


 だが、瞬きするほどの間だけだったので依頼人は気付いていない。男はあっけらかんと言い放った。


「精霊を操る素質がない、無能者だったはずですけどね」

「な」

「……チッ」


 依頼人は絶句し、剣城は男を睨みつけながら舌打ちした。

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風邪使い @GRMN

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