振り子神主、ラジカセで盛り上げる

@saketanuki

第1話 観光と占い

紹介がないといけないという変わった神主さんの占いをしてもらう運びとなった。あくまで日程も神主さんが決めるし、時間も指定である。偶然にも予定が空いていたので、ドライブがてら数時間かけて神社へ向かった。運転中、ずっと考えていたのは「何を占ってもらうのか、というか悩みがないから、何を相談したらいいのか」ということだった。藤井風の曲に合わせてノリノリで悩みがないことを悩み続けていた。約束の時間に社につくと、前のお客さんが延長しているようで、まだ話をしている。境内をウロウロして待つことにした。眼下には海が広がり、かすかな潮の香りが鼻をくすぐる。旅気分が上がりすぎてしまい、調子にのって目を閉じて歩いていたら、お稲荷さんの祠に頭をぶつけた。痛い。至極痛い。銅製の祠の鋭くとがった屋根に頭をぶつけた。ちょっと血がでている。縁起悪くね?と口に出しそうになるも我慢してベンチにうずくまった。頭に神経全集中。何度も痛いの痛いの飛んでゆけーと繰り返していたら、神主に声をかけられた。普通のおじさん、いや、普通じゃない。尋常じゃないくらいに装束がよれよれだし、足袋が薄汚れている。というか、汚れている。この人に私の何がわかるというのか、と瞬時に疑いの目を向けてしまった。神主は社に招いてくれると自分の旅行の話などをして大笑いしている。何がおかしいか落としどころのない話である。しかし、神主はふと時折真顔になって私の目をのぞき込んだりしてくる。その眼光の強さは、ちょっとひるむほどである。笑えることを考えてなんとか笑わねば……。よく考えれば縁もゆかりもない神社に来て、流血し、知らない神主と社内で対峙している自分を思うと面白くなってきてしまって、私も笑っていた。鋭い眼光に監視されながら、へらへらと笑い続けた。雑談も30分を過ぎたころ、手のひらを出すように言われた。神棚から仰々しく運んできた桐箱には振り子。ダウジング占いというものらしい。神主は「ふんふん。そうだよね。ふん、ふん、あー、ふんふん」と私の手のひらと会話を始めた。振り子は、右左、上下、東西南北、360度動いて神主に反応している。手のひらの上を縦横無尽に緑色の石のついた振り子が踊っている。その結果「あなたは、中学3年生の時に抱いていた夢をもう一度改めてトライしなさい。いいことあるからさ」と言われた。おそらく、このサイトを利用している方の多くは「トゥンク」とか胸が高鳴ってしまうのではないか。芥川龍之介に憧れ、太宰治に傾倒し、夏目漱石を分かった風に手にしていたあの頃。えぇ、高鳴りました。わたしの胸はその汚い足袋をはいた神主の言葉に踊り、熱くなりました。ゆえに何年も何年も書いていなかった文章をまた書こう。そんな風に思った占いでありました。神主は最後にお祓いをしてくれるのだけれど、全てがワンオペなので、神棚にお辞儀をして、ラジカセをおもむろに引っ張り出し、カセットテープに吹き込まれた神曲に合わせて、埃まみれの払い串をバッサバッサと振り回し、狭い神前を汚い足袋で隅々まで歩き回り、音楽を変えたりしながらかしこみ申している。わたしの穢れが多いのか、払ってくれる時間の長いこと長いことよ。払ってもらい外に出ると、あんなにきれいに見えていた海は闇に消え、境内はひっそりと、ただお稲荷さんの祠だけがうっすら光って見えました。何時間、占っとんねん。そう思いながら神主を見ると、神主は「な。日が暮れてたな」という視線を向けてくれました。

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