異世界転移なんて認めるか!
シーサル
第1話
「異世界転移してみてー!」
幼馴染のそんな言葉を聞いて、私は鼻から笑った。
「いやさ。ケイって本当にアホだよね」
「あ?」
ケイは不機嫌そうにこちらを見つめる。
自分の趣味を否定されたのが嫌だったのだろう。
「俺だけじゃないよ。今流行ってんの!異世界転移!」
「知ってるけどさ……普通に考えてあり得ないじゃん」
「有り得なくないよ!ずっと俺は信じているんだ!」
ケイはこういう男だ。
アホでバカでおちゃらけもの。でもたまにかっこいい時がある。
にしてもそろそろいい加減にして欲しい。異世界転移なんて馬鹿らしい。
「そんな事ないから」
「〜ッ!それじゃあエミ、本当に異世界転生したらどうするよ!」
また面白い事を言う。
「はぁ……さっきも言ったけど現実的に考えて異世界転移なんてあり得ないから」
「あり得るよ!俺はずっとそれ目指してんだ!」
「……」
「絶対あるよ異世界転移!」
「ないよ」
断言する。異世界転移なんてない。
もし、記憶を保ちながら別の世界にいったら世界の均衡が変わっちゃう。
そんな事はないのだ。
ケイは下校中、ずっと不機嫌そうにしていた。
少し、謝ろうと思ったが言えなかった。
---
その日の夜。
私は勉強を終えて、シャープペンシルを置いた。
「ふぅ」
一旦、ひと段落である。
……
まだ今日の下校の事が気になっている。
ちょっと強く当たりすぎたかもしれない。やけになり過ぎた。
それでも異世界なんて……私はもっと別の事で話したいのに。
「もう知らない!寝てやる!」
私はベットに頭から突っ込んで眠りについた。
「う〜ん?」
目を覚ますと知らない光景が広がっている。
豪華なカーテン、金の装飾。そして極め付けは目の前に居座る冠を被った男。
彼はまや豪華な椅子に腰掛けて私を見つめている。
「?」
夢であろうか。
私は目をパチパチと開け閉じして、また見直す。
「起きたか」
その瞬間、その男から言葉が発せられる。
重圧音のある声。まるで現実の様だ。
「さて、ようこそ異世界へ」
いせ……異世界?
その男は確かにそういった。異世界。そう発したのだ。
「い……異世界いいいいいい!!」
瞬間、隣から聞き覚えのある大きな声が響く。
横を見るとそこにはケイが座っていた。ケイも私に気づいた様で振り向いて笑う。
「ほらな!言った通りだろ!へへっ」
意味が分からない。
すごい夢だ。やはり私は気にしていたのだろう。
「馬鹿らしい」
目の前のケイを見る。
でもこれはケイじゃない。夢の世界のケイだ。
……謝ろう。
言い過ぎたって謝ろう。それがいい。
私は目を瞑る。
私は、夢の世界で眠れば現実に戻れる。
……筈だった。
いつまで経っても夢から覚める事はない。
「無駄だ。ここは夢ではなく現実なのだから」
「いやっ……あり得ないでしょ」
「あり得る。現にお前達がここにいるのが証拠だ」
本当に……いやそんな訳がない。
理屈がつかない。
「信じられない様なら、ひとつ。魔法を見せてやろう」
グワンッ
浮遊感に包まれる。浮いているのだ。
夢でここまでの浮遊感があるのか……いやこれは夢だ。流石に信じない。
夢の中のケイは目を輝かせている。夢でも同じか。
「ここまでやっても無理か。厄介だな」
王は私を降ろす。
「おい。異世界転生に興味がある奴を転移させよと言ったはずだ」
「王様……興味はあった様なのですが……」
「恐らくミスだろうな」
王と呼ばれた男は再度こちらを向けた。
「まぁ、しばらく生活してみるがいい。次第にここが現実だと理解できるだろう」
「ありえないから……」
「マルコ、案内しろ」
「承知いたしました」
マルコと呼ばれた男が前に来る。
「私は護衛のマルコと申します」
「はぁ……」
「貴方方がここに呼ばれたのは異世界の知識を蓄える為なのです」
との事だ。
中々、夢にしては設定がしっかりしている。
そこに目を輝かせたケイが話しかけてくる。
「エミ!楽しみだな!」
「……」
「エミ?」
「貴方も私が作り出した偽物でしょう?」
ケイの顔が少し曇った様に見えた。
「ここまで来て、まだ認めないのかよ」
「……」
「もういいよ」
どうせ夢だ。
夢の中までこんな事をしたくないのだ。
少し気掛かりになりながらも大人しく、マルコについていく。
ケイは外の景色を見つめてはしゃいでいる。確かに綺麗だ。
「私達は今、エネルギー不足に陥っているのです」
道中、マルコはそう話した。
「何か良い案はないでしょうか」
というと、待っていましたという様にケイが言う。
「太陽光とか風とか水とか。そんな自然なものからエネルギーを出したらいいんじゃない!」
「おお!それは素晴らしい発想ですね!さすがです!」
「ふふふ」
「使わせていただきますね」
ケイは満足そうに微笑む。
……正直ウンザリである。自分が作ったものではないのに何故言って、なぜ褒められなければいけないのか。こういうのが嫌いだ。
一つの部屋に案内される。
「生憎、お部屋がまだ準備できておらず、ここの一部屋しかないんです」
「えっ」
「どうかご了承ください」
ケイの表情が固まった。
マルコが去っていくと、ケイは私に同調を求めるかの様に見つめてくる。
「別にいいよ」
どうせ夢だし。
もし夢なら……ね。少しぐらいはいい気分になりたい。
ケイは置いてあった本を読みつつも、チラチラと私を見てくる。
機嫌を疑っているのだろうか。えらく正確な夢である。
「お二人方、少し出向けて頂けますか」
そこにマルコの声がかかる。
「はい!」
ケイが率先して前に出る。
今回は街を案内してくれるらしい。
マルコ、私、ケイは城を出て街を彷徨う。
面白い街だ。マーケットみたいな感じ。
当然、ケイは興奮を隠しきれていない様だ。
「ほぉ〜!」とか「うわぁ……」とか感嘆を漏らしている。
「エミさん、でしたか」
そこを見てか、マルコが話しかけてくる。
マルコという男はどこかで見覚えがある。そうだ。私は好きなアイドルだ。
夢は頭の中で作られるので、このマルコという人物もそのアイドルにちなんで作られたのだろう。まぁとにかくイケメンである。
「どうですか、異世界に来てみて」
「実感がないというか。まだ夢だと思っています」
「はははっ。信じ切るにはもう少し時間がかかりますよね」
マルコはその妖美な顔で微笑む。
思わずキュンとなる。ケイもこれぐらい大人の余裕という物を持って欲しい。
「では行きましょうか。中心部はもっと賑やかですよ」
連れられる様に来た中心部はすごい反響であった。
皆が楽しそうに買い物やデートを楽しんでいる。
「凄い……」
私はそう言うケイを見つめる。
夢の中の……しかも知っている人だからかどう接すればいいか分からない。
というよりも無理に接する必要はないか。
「う〜ん」
それにしてもそろそろ目覚めてもいい頃だと思う。
絶対に異世界転移じゃないけど。
街の徘徊が終わる頃には部屋の準備ができた様で、私とケイは違う部屋になった。
私はベットに腰掛けて上空を見る。
殆ど一日中、私はこの世界にいた。それでも目覚めなかった。
これは……本当に夢なのか……いや夢と信じるしかない。
もう寝よう。
私は部屋の鍵を閉めて、就寝についた。
明日にはもう目覚めているはずだ。
コンコンッ
ドアから音が鳴る。誰かがノックさせている様だ。
「……」
私はゆっくりと近づいて、隙間から誰かを見た。
マルコである。何かを届けに来てくれたのだろうか。
「用事がありまして、開けていただけますか」
「はい」
私は開けてしまった。
もしかしたら彼に少し見惚れているのかもしれない。
「それでどうされて……」
ドッ
軽く押し出されて後ろに下がる。
カチャッ
そして鍵が閉めれた。
「え?」
「よう」
男はあの笑顔を浮かべる。
あの時は……明るく、妖美でカッコいい笑顔であった。
でも今見ると……それは恐ろしく何かを狙うかの様な目だ。
「ヒィッ」
思わず声を漏らして引き下がる。
「何を……しているんですか?」
「お喋りをしたいと思ったのさ。君とね」
「いや……私はしたくありません!」
「でも頬が赤かったよ?」
ゾクッ
体が震える。
「それにしても開けちゃダメじゃないか。他の男にはダメだぞ?」
「離れて!」
「怖いねぇ……狂犬かな?」
男はまた笑う。
気持ちが悪い。
「そんなに怖がらなくてもいいよ。だってこれは夢なんでしょ?」
「いや……その……」
「夢って、自分が見たいモノを見るんだよね。って事は僕みたいなイケメンと付き合いたかったんじゃないの?」
「そんな事……」
「とにかくこれは夢なんだからいいじゃん?ね?」
男はゆっくりと近づいてくる。
「夢だとしても嫌!」
「大丈夫。怖がらないで!これは夢なんだから!」
恐ろしい。
自身が否定していた事がこうやって使われるなんて……
いや大丈夫。現実じゃない。異世界転移じゃない。夢だ。そう夢だ。
大丈夫。何かされる前に目覚める……そう……
トッ
彼は肩に触れてくる。
「今日は疲れただろう?とにかく一旦、ベットでお話を」
誰か……誰か……ケイ、助けて!
ガンガンガンガンッ!
その時、強い音が鳴り響いた。
「おい!エミ!大丈夫か!」
その声は何度も聞いた事のあるケイの声であった。
「ケイ!」
「エミ!」
マルコが一瞬立ち止まる。
「ふぅ……ケイさん、落ち着いたらどうですか」
「落ち着けるか!」
「君はエミさんから好かれていないんですから、大人しくそこに居ておいてください」
「ッ!」
ケイは怯む。
「異世界に来たと思えば、自信満々に知識を伝える。更には少しはしゃいで……みっともない。そりゃ幻滅されますよ」
「いや……俺は……」
「ほら、自分でも自覚で来ているじゃないですか」
ケイ……
確かに私はケイを避けていた。
夢の中のケイだから。友達が……夢の中にいたら話しかけ辛かった。
でも……この声と、この情熱……私は……
「それでも……嫌われていようと俺はエミを助けたい!」
声が響く。
その声は……その声は本物に見えた。
ケイだ。そう、ケイなんだ。
「なにを。まるで私が悪者の様だ」
「俺は何度でもお前を責めるぞ!」
「どうぞご勝手に」
音は鳴り続ける。
マルコは再度近づいてくる。
ここからは私が気持ちを伝える番だ。
「ケイ!」
「!」
「私、貴方を避けてた!異世界転移なんて信じずに夢だと思って!でも……でも……これは少なくとも現実じゃないし、ケイは本物!優しいもん!」
「!」
「ケイ……私は……貴方を信じる」
バキッ
「なっ」
瞬間、扉の外が発光し出す。
「うおおおおおおっ!」
ドゴッ!
そしてドアが破壊されてケイが中へ入ってくる。
「覚醒……しつこい男だ!」
マルコはすぐに私を掴む。
「キャッ」
「とまれ!それ以上近づけばこいつを魔法で……」
バッ
瞬間、ケイが消える。
そして次に見えたのは彼の拳であった。
ドゴォォッ!
そして強烈な音を立てて飛ばされていく。
マルコは気絶した。
「エミ、本当に遅れてごめん」
「うん……それにしてもなんで気づいたの?」
ケイは少し恥ずかしそうな顔をする。
「謝ろうと思ってさ。全部強要して……ダサいと思って……謝ろうと思ったんだ」
「……」
「その時にマルコが入っているのを見て……それで……俺は……気づいた」
「うん」
「でも……部屋に呼んだのはエミで……迷った挙句、俺は近くまで行ったんだ。それで声が聞こえて……」
と完全に目を逸らす。
「私も」
「え?」
「私も謝ろうと思ってた。偽物とか、絶対無いとか言ってごめん」
「……うん」
心がスッキリした。
なんでこうしなかったのだろう。
「それでどうしよっか。一応……有名な人なんだよね?」
と聞くと、ケイは私の手を掴む。
「それじゃあ一緒に逃げようぜ」
「!」
「ずっとついて行ってやるからよ!」
まさか……それって……
グワンッ
頭がクラクラしてきた。
え?なんで……
気絶した
---
「!」
目が覚める。
いつもの様な朝である。現実に戻って来たのだ。
「結局……夢だったのか」
少し悔しい。せっかく言えたのに。
でも……また言えばいい。覚悟はできたのだ。
「それでも悔しいなぁ……」
あのまま……あのままもう少し居たかった。
全てが、あの会話もあの世界も……全てが嘘だったのだ。
「ふぅ」
一旦落ち着こう。
ケンが待っている。
支度を済ませてドアを開ける。
「よっ!」
そこにはいつもの笑顔を浮かべたケイがいた。
安心がある。
一定のテンポで歩く。
今気づいたが、ケイは私の歩幅に合わせて歩いてくれている様だ。
今気づいたのが……少し嫌だ。もう少し早くに気づくべきだった。
「……なぁエミ」
「?」
「俺さ、変な夢を見たんだ」
夢という単語に反応する。
「それって……あれ?太陽とか風とか水とか」
「うん」
「言いにくいけど……ケイが助けてくれたやつ?」
「うん!」
「って事はさ」
「うん!」
笑い合った。
よかった……あの言葉も……全て嘘じゃなかった。
「いや……異世界転移。思っていたのと違ったな」
「うん」
「?エミは異世界転移、信じるのか?」
「そう。ちょっとは信じようと思った」
ケイは少し嬉しそうな表情を浮かべる。
「でもさ。俺もちょっと行き過ぎだと思った」
「ん?」
「多分、エミは異世界とか興味ないのに……俺は押し付けた」
「そんな事……」
「あとさ。一回行ってみてなんか分かったよ。もう執着するのは辞めた」
ケイは私を見つめる。
「もっといっぱい、色んな事を話したいから!」
「ッ!」
ドクンッ
私は思う。今こそはチャンスなんじゃないかと。
幼馴染で一緒にいて、この気持ちが芽生えて来ていたのは知っている。
だからこそ……いま……
「エミ、学校に間に合わないぞ」
「っ!そうだね」
まだいう自信はないや。
でもいつかは……
「ほら行くぞ!」
「うん!」
共に並んで学校へ向かう。
この関係がずっと続いて欲しい……
(終)
異世界転移なんて認めるか! シーサル @chery39
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます