第八話:正木城の風、未来への誓い

 慶長七1602年。出合であいの合流を制した直後の正木まさき城。


 私は、加藤かとう左馬助さまのすけ嘉明よしあきと対峙していた。背後には、普請奉行として『松山』の巨大図面を広げる半助おじさんがいた。


みなと。わしはこの勝山かつやまを新たな本拠と定め、地名を松山と名付けることにした。来年より、この正木を離れ、あちらに天下の名城を築く。半助、二十年かかる大仕事に挑め!」


「承知いたしました、殿。湊が引いたあの消失点パースさえあれば、必ずや天下に冠する城を築いてみせましょう」


 半助おじさんは不敵に笑い、私に目配せをした。その瞳には、熱病を乗り越えた技術者特有の、静かな力が宿っていた。


 その時、私の指先に強烈なノイズが走った。


 ――視界が、加速する。


 それは、令和八2026年のデジタルなバグのようでもあり、昭和五十四1979年のブラウン管が発する走査線のようでもあった。目の前の景色が、パラパラ漫画のように猛烈な勢いで上書きされていく。



勝山の石垣がせり上がり、巨大な天守が空を衝く。慶長八1603年、拠点が「松山」へ移り、この正木城が静かな古城へ退く瞬間が火花のように見えた。


 半助おじさんの髪に白髪が混じり、腰が曲がっていく。寛永二1625年、病床の彼は「まだそこに居るのか、湊」と、見えない私へ微笑み、静かに目を閉じた。


 さらに時は飛び、寛永四1627年。


 会津への転封てんぽうを前に、完成した松山城の天守に立つ左馬助様が、透けゆく私を振り返る。


「湊。半助は名を残すなと言い遺したが、わしはあやつほどお人好しではない。わしは去るが、あの川にはあやつの名を刻ませた」


 彼はかつての拠点、正木の方角を指差した。


「わしが『松山』をおこしても、民はあやつと泥をいた記憶を『まさき』という音で呼び続けた。ならば、川にあやつの名を刻むくらい許されよう。あやつが土台を築いたほまれを、歴史の闇に埋もれさせてたまるか」


 慶長七1602年から寛永四1627年へ。


 二十五年分の風が私を通り抜ける。私は、消えゆく力で精一杯叫んだ。


「左馬助様!! おじさんの名前を、川に繋いでくれてありがとう! 四百年後も、みんな『まさき』って呼んどるよ! おじさんも、左馬助様も、大好きやけん!」

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