第六話:出合の激突、二つの龍

 ついに、最大の急所――出合であいでの工事が始まった。


 北から下る石手川いしてがわと、東から押し寄せる伊予川いよがわが真正面から衝突し、巨大な渦を巻く。折悪おりあしく、記録的な豪雨が大地を叩いていた。


半助はんすけ様! つつみが足元から削り取られていきます!」


 どんなに結束バンドタイラップかごを強化しても、土台の土砂がさらわれれば無に帰す。


「おじさん! もう無理や!」


 だが半助おじさんは退かなかった。濁流の縁に立ち尽くしている。


みなと、貴様の目に映る『完成図』を教えてくれ! 二つのりゅうを一つにするには、どこに線を引けばよい!」


 私はびしょ濡れのスケッチブックに、激流のベクトルを打ち消す「反転の線」を叩きつけた。


「あそこの渦の下に、一番大きい石を置いて! 二つの川がぶつかる力を、そこで一度、上に跳ね上げさせるんよ。そうすれば、勢いが死ぬけん!」


 昭和五十四1979年の工事現場で見た、消波ブロックの配置の記憶。


勘助かんすけさん、結束バンドを三本繋いで! あれで、あそこの大石と竹束たけたばを固定して!」


「おうよ! やってやるぜ!」

 

「ジッ! ジ、ジジジジッ!!」


 雨音を切り裂き、白いラチェット音が響く。


 一瞬、川が大きくうめいた。巨大な水柱が立ち、視界が真っ白に染まる。


 けれど、次の瞬間。


 互いに噛み合って暴れていた二つの川が、私の引いた「導線」の通り、美しい一つのを描いて西へと向かい始めた。


「流れた。流れたぞ!」


 歓喜の叫びが上がる。だが、振り返った私の目に映ったのは、泥に沈むおじさんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る