鎌の行方

タピオカ転売屋

思い出

 私の地元にあった都市伝説を紹介したいと思う。


 私が小学校時代のことだ。

 鎌投げババアと呼ばれるお婆さんが私たちの恐怖の中心であった。


 しかも、ただの伝説ではない。

 実在するのだ、その証拠に住んでいる家も皆、知っていた。


 その伝説の詳細はこうである。

 その家の近所に原っぱがあり、子供たちの遊び場であった。

 ある日、そこで遊んでいると鎌を持ったババアが現れて、追いかけまわされたらしい。


 それだけなら、ただの過激なババアであるが、彼女は鎌持ちババアではない、鎌投げババアなのだ。


 彼女の投げた鎌は逃げる子供の足にぶっ刺さり、一生消えない傷になったとかならないとか。

 まあ、このあたりはあやふやのまま伝わっている。


 今は原っぱも、家も、とうに無くなっている。

 それでも、鎌投げババアに追われた時には、こう逃げろと聞かされた逃げ道だけは、今も頭の中に残っている。


 しかしまだ恐怖は、終わらない。

 鎌投げババアには、鎌拾いジジィという伴侶がおり、ババアの投げた鎌をジジィが回収するというコンビプレイまで習得している。




 ここまで伝説として話してきたが、ここからは真実を話していきたい。

 鎌投げババアと呼ばれる女性は、確かに存在した。


 それは間違いない。


 なぜなら、私は彼女に取材をしたことがあるのだ。


 当時、私の学校には新聞部があり、校内新聞を月1回発行していた。


 新聞部に在籍していた私は、スクープをモノにせんと鎌投げババアへの直撃取材を計画したのだ。

 今、思えばなんという無茶をやったのだろうと思う。


 流石に単独での取材は危険、と思ったので他の部員に話をするも鎌投げババアと聞いた途端――皆、尻込みをして逃げていった。


 ジャーナリズムの欠片すらない部員を諦め、私は友人に声をかけることにした。


 結果から言えば、惨敗である。


 ただ、声をかけた全員が、生きて戻れたら話を聞かせて欲しいと言ってきた。


 この時、私は理由のわからない使命感という衝動に突き動かされていた。


 今思えば、子供っぽいヒーロー願望だったのかもしれない。


 とはいえ、私もまだ十やそこらで人生を終えるつもりはない。

 まずは、周辺取材を行なうことにした。


 周辺とは何か?


 鎌拾いジジィである。


 あの時の私が、なぜそう思ったのかは、五十年たっても謎のままである。


 あくまで推測に過ぎないが、彼は鎌を拾うだけで投げないという一点突破ではないだろうか。


 子供に論理を求めるのは酷であるからして、このへんにしておこう。


 しかし、先ほども言及したように彼らは、コンビプレイを得意とする。


 即ち、鎌拾いジジィが単独で居るところを狙うのは、子供の限られた時間では無理がある。


 ならば、単独にすればいい。


 重ねて言うが、子供に論理を求めてはいけない。


 その時の私が考えた作戦はこうだ。


 おとり役がババアを引きつけている間に私がジジィに接触して取材する。


 この作戦の肝は、おとり役がどれだけババアを引きつけることが出来るかにかかっている。


 問題は、このおとり役を誰がするかということである。

 先ほど、私は友人に同行してもらうよう話をしたと言ったが、正確には、一人を除いて話をしたのだった。


 その一人が、M岡君である。


 なぜ、私がM岡君に話をしなかったのかと言うと、色々と言葉を弄するより、こう言ったほうがわかりやすいだろう。


 バカなんだ、M岡君は。


 しかし、私の作戦に乗ってくれるのは、彼をおいて他にいなかった。


 もし居たら、当然そっちに頼む。


 早速、私は光岡君に……あっ!

 M岡君に事の次第を説明した。


 M岡君は、黙って話を聞いていたが、聞き終わるとこう言った。


「そこまでするなら、直接鎌投げババアに取材したほうが良くない?」


 全く、これだからM岡君は。


 これ以上の説明は、彼にとって苦痛になってしまうと思い、彼に決断を促した。


「どうする?やるか?」


 M岡君は笑顔でこう言った。

「うん。やるー」


 こうして無敵の二人が誕生したのである。


 その日の放課後、私たちは例の原っぱに向かう。

 道中、私はくどいほどM岡君に手筈を説明していた。


「いいか、相手は鎌を持っているとは言えババアだ、スピード勝負ならこっちのモンだ――だけどな、あまり突き離すとババアは追うのを諦めてしまうだろう」


 M岡君は、わかっているのかいないのか、鼻歌を歌っている。


「おい、聞けって!つかず離れず、それでいて鎌が届かない距離を保つ――これがこの作戦の一番大事なとこなんだ」


 M岡君は、両手で大きな丸を作る。


 私にはわかる――M岡君は、絶対聞いてない。


 今思えば、ここが引き返すラストチャンスだったように思う。


 しかし、あの頃私は若かった。

 撤退する勇気を臆病だと思っていたのだ。


 M岡君は、きっと何も考えてなかったはずだ。


 やがて、原っぱが見えてきた。


 身体が震える。


 私は、事前に打ち合わせておいた、ハンドサインをM岡君に送る。


 M岡君が首を傾げている。


 私は、何度もハンドサインを繰り返す。


「ね〜何してんの?」

 M岡君は、残酷だ。


「……帰ろうか」

「うん。」


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