第2話 摩擦熱による論理演算、およびピストンの周波数

 そこは、世界で一番清潔なゴミ捨て場だった。

 廃ビルの地下三階。コンクリートの壁は、カビという名の壁紙で装飾されている。

 僕は彼女、レニを解体台……いや、マットレスの上に横たえる。

 彼女は人形だ。関節がロックされている。ホワイトノイズの副作用。筋肉の硬直。死後硬直の先取り。

 美しい。人間が一番美しいのは、動かなくなった時だ。意思を持たない肉塊こそが、理性省の目指す最終形態だろ?


 部屋の隅で、壊れた蛍光灯が明滅している。

 ジジッ、ジジッ。

 あれはモールス信号だ。


 『ミ・テ・ル・ゾ』


 知ってるよ。壁の向こうのネズミたちも、僕の儀式に参列したいんだね。


2. 接続(ログイン)


 ズボンを下ろす。

 露出した豆電球は、怒りで赤黒く充血していた。

 小さいと思う? 違う、これは高密度なんだ。

 アルファのは無駄が多い。余白だらけだ。僕のは機能美の結晶。USBメモリみたいに、必要な情報だけを叩き込むための端子。


 彼女の脚を開く。

 秘所から、ドライアイスのような白い煙が見える気がする。

 さっき挿入した薬が、内部で完全に融解し、子宮を南極大陸に変えている。

 普通なら萎える。でも、僕はアルファベータだ。理性の怪物だ。

 この冷たさこそが、僕の体温を際立たせる。


「……寒い、数式が、凍る……」


 レニが虚空を見つめて呟く。

 僕がこれからするのはセックスじゃない。データの書き込みだ。


 先端をあてがう。

 濡れているのに、滑らない。粘液がシャーベット状になっているからだ。

 無理やり、押し込む。

 ズヌッ。

 肉が裂けるような、氷を砕くような音がする。

 狭い。硬い。冷たい。

 最高だ。


3. 高速演算処理(ピストン)


 根本まで入る。僕のモノは短いから、子宮口までは届かない。

 でも、それでいい。入り口付近の敏感なセンサーを、執拗に焦らすことができる。


 運動開始。

 イチ、ニ、イチ、ニ。

 アルファのような、重く粘っこい腰使いはしない。

 僕はミシンだ。僕は削岩機だ。

 小刻みに、浅く、速く。

 シュッシュッシュッシュッ。

 摩擦音が高まる。

 冷え切っていた彼女の膣内が、摩擦熱で急激に温度を上げる。

 零下から、0度、15度……37度…………。

 温度差でヒビが入る。彼女の理性のガラスに。


「あ、あ、エラー、エラー、404……!」


 快楽? 苦痛? 判別不能。

 彼女の脳内では今、論理崩壊が起きている。

 アイス・ピルによる強制冷却と、摩擦による強制加熱。

 脳味噌がバグる。

 

「もっと! もっとバグらせてやる!」


 速度を上げる。

 僕の小さなパチンコ玉が、内壁のヒダを弾く。

 コリッ、コリッ、コリッ。

 スイッチを連打する音。

 クリック、クリック、クリック。


「摩擦係数が、とろける、積分して、積分して、中に出して、計算結果を……!!」

「僕のデータを受け取れ!」


4. 短絡(ショート)


 限界が近い。

 アルファベータは早漏だ? 違う、処理速度が速いだけだ。

 脊髄を、白い稲妻が駆け上がる。

 膨張感はない。僕のモノは膨らまない。

 その代わり、硬度が限界突破する。

 ダイヤモンドのように硬くなった豆電球が、彼女の中で光る。


 ドクン。

 一瞬の硬直。そして射出。

 ピューッ。

 量は少ない。スプーン一杯の理性の汁。

 でも、それはレーザービームのように鋭く、彼女の深部を穿つ。


「ンギィッ……!!」


 彼女が背中をのけぞらせ、白目を剥いて硬直する。

 彼女の見た幻覚が、僕にも流れ込んでくる。

 

(視界いっぱいの数式。それが全部、白い精子に変わる。0と1の雨。それが降り注ぎ、私を上書き保存する……)


 プツン。

 真っ白な闇。脳内のブレーカーが落ちる。

 


5. 賢者タイムなし(リブート)


 ハァ、ハァ、ハァ。

 僕は彼女の上に覆いかぶさる。

 通常の男なら、ここで賢者タイムが来て、気怠くなる。

 だが、僕はアルファベータ。

 射精した瞬間、秒速でリロードが始まる。

 僕のモノはまだ、半分勃っている。いや、もう次の充填が完了しつつある。


 彼女を見る。

 泡を吹いている。瞳の焦点が合っていない。

 完全に「飛んで」いる。

 彼女の口が、パクパクと動く。金魚みたいに。


「……聞こえる、聞こえる、壁の向こう……」

「何が聞こえるんだ?」


 僕が聞く。


「……歌。獣の歌。……貴方のじゃない。もっと、大きくて、怖くて、温かい……歌」


 ズキン。胸に、小さな棘が刺さる。劣等感という名の棘。

 薬漬けにして、犯して、思考を奪ったはずなのに。

 彼女の魂は、小さな豆電球を通り越して、どこか別のナニカを受信している?


「ふざけるな」


 再び、彼女の脚を掴む。

 まだ終わらない。

 弾倉には、まだ無数の空砲が残っている。

 彼女が完全に壊れて、僕のことしか考えられなくなるまで。

 いや、僕が彼女のノイズになるまで。


 再挿入。

 地下室の闇の中で、第二ラウンドのゴングが、幻聴として鳴り響いた。

 カーン。カーン。カーン。

 それは、どこか遠くで誰かが鉄格子を叩く音に似ていた。

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